著者のコラム一覧
内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(20)お客の話を聞いてあげるのも、ドライバーの仕事のうち

公開日: 更新日:

 ある日のこと。高齢の女性が手を上げているのを見つけてクルマを止めた。いつもの街を流していたのだが、なかなかお客に巡り合えず「どうしたものか。場所を変えるか」と考えていたときだっただけに「ラッキー」と思わず頬がゆるんだ。

「運転手さん、聞いてよ」

 その女性、クルマに乗り込むや否や、元気な声で私に話しかけてきた。勤めている会社の規定では、行き先の確認以外では原則として会話は慎むことになっているが、それはドライバーから話しかける場合のみで、お客から話しかけられたときは別だ。私は「どうなさいましたか」と応じた。すると「待っていました」とばかりに彼女が話しはじめた。

「うちの宿六がね、どうしようもないのよ」

 この“宿六”という言葉、若い世代には馴染みのない言葉だろう。“宿”とは“家”とか“夫”という意味で“六”は“ろくでなし”のこと。つまり、妻がダメな夫を蔑んで指す言葉だ。お客はとにかく元気で、明るい女性。昼下がり、長く空車でクルマを走らせた私だったが、ちょうどいくらか眠気が襲ってきそうなときだったので、眠気覚ましにはうってつけのお客だった。

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    天皇一家の生活費360万円を窃盗! 懲戒免職された25歳の侍従職は何者なのか

  2. 2

    永野芽郁は映画「かくかくしかじか」に続きNHK大河「豊臣兄弟!」に強行出演へ

  3. 3

    永野芽郁&田中圭の“不倫LINE”はどこから流出したか? サイバーセキュリティーの専門家が分析

  4. 4

    気持ち悪ッ!大阪・関西万博の大屋根リングに虫が大量発生…日刊ゲンダイカメラマンも「肌にまとわりつく」と目撃証言

  5. 5

    オリオールズ菅野智之 トレードでドジャースorカブス入りに現実味…日本人投手欠く両球団が争奪戦へ

  1. 6

    阿部巨人が企む「トレードもう一丁!」…パ野手の候補は6人、多少問題児でも厭わず

  2. 7

    乃木坂46では癒やし系…五百城茉央の魅力は、切れ味と温かさ共存していること

  3. 8

    初日から無傷の6連勝!伯桜鵬の実力を底上げした「宮城野部屋閉鎖」の恩恵

  4. 9

    新潟県十日町市の“限界集落”に移住したドイツ人建築デザイナーが起こした奇跡

  5. 10

    トランプ大統領“暗殺”に動き出すのか…米FBI元長官「呼びかけ」の波紋