著者のコラム一覧
植月正章元アシックス営業本部長

1938(昭和13)年、鳥取県智頭町生まれ。57年オニツカ㈱入社、77年㈱アシックス推進部長、84年理事、88年取締役販売促進部長、93年常務取締役アスレチック事業本部長、99年専務取締役フットウエア営業本部長。2003年任期満了に伴い退任後、兵庫陸上競技協会会長、神戸市体育協会副会長、兵庫県体育協会副会長、神戸マラソン実行委員会会長、近畿陸上競技協会会長などを歴任。

<9>三村君は高橋尚子に嘘をついてソールの厚みが異なるシューズを渡した

公開日: 更新日:

「左右の高さが同じ、以前の靴に戻して欲しいです」

 シドニー五輪の直前、高橋尚子からこう言われたシューズ職人の三村(仁司)君は悩んだ。高橋は左右の脚の長さが違う。普通のシューズではバランスが悪い着地で再び故障するかも知れない。レース中に痛みが出て結果が残せない可能性もある。三村君は小出監督も交えて3人で話し合い、高さが同じ靴に戻すことを約束した。ここまでの話は知っていた。

 レース当日。私は三村君とオリンピックスタジアムのスタンドで高橋のスタートを見送ると、途中経過をテレビで見るためアシックスのサービスステーション(SS)へ戻った。三村君はなぜか元気がない。

 レースは終盤に入り、優勝争いは高橋とリディア・シモンに絞られた。35キロ手前、高橋がサングラスを投げてスパートをかけた。

 トップで戻ってくることを願いつつ、三村君と再びスタジアムのスタンドへ。

 先頭で競技場に入ってきた高橋は追いすがるシモンを8秒差で振り切り、1着でゴール。時計は2時間23分14秒。五輪最高記録だった。

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