佐々木朗希の武器は164キロ剛速球にあらず 71年に1奪三振で完全試合の高橋善正氏が語る

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 羨ましい、と素直に思う。史上最年少で完全試合を達成したロッテの佐々木朗希(20)は、身長190センチ、体重85キロ。手足が長く、投手として理想的な体をしている。この日の最速は164キロ。平均でも160キロ台に届こうかという天賦の才に溜め息しか出ない。

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 私も東映時代の1971年8月21日(西鉄戦)に完全試合をやった。とはいえ、佐々木朗とは何から何まで違う。向こうが19奪三振なら、こちらはたった1奪三振。66年にドラフト1位で中央大から東映に入団して1年目に15勝11敗で新人王になったものの、入団3年目に腰を痛めた。雨上がりの道路を走っていたら足を滑らせて転倒。運悪く、蓋をしてない排水溝に体がくの字にはまってしまった。完全試合を達成した入団5年目、真っ直ぐの球速は135キロが精一杯になっていた。

 だから、当時で11人しかマークしていなかった記録を達成できるとは、周りも自分も思っていなかった。実際、二遊間を守る同期の大下剛史と2年後輩の大橋譲が二回の時点で「完全試合だ、完全試合だ」と茶化してきた。マウンド上で「うるせえ」なんて応戦するような状態。六回になったら二人とも静かになるもんだから、「なんだ緊張してんのか。エラーすんじぇねえぞ」とこっちから軽口を叩いたりした。

本格派にして球が荒れない

 九回2死までいって初めて、「ここまできたらやらなきゃ損だな」と意識した。迎えた打者は代打の和田博実さん。シュート打ちに定評のあった右打者で、マスクをかぶっていた先輩捕手の種茂雅之さんからはカーブのサインが出た。

 腰を痛めてからは学生時代から自信のあった決め球のシュートのキレが落ち、代わりに覚えたカーブというかスライダーで何とか打者に的を絞らせないような投球をするしかなくなっていた。そんな即席の球種で打たれたら悔いが残る。

 初球。捕手のサインに2度、首を振ってシュートを投げた。狙いすましたように打った和田さんの打球がレフトへ高々と上がった。アッと思ったが、打球は張本勲さんのグラブに収まった。3ミリ甘く入っていたら、本塁打だったと思う。故障してから制球力で生きるしかなくなった私は、打者と㍉単位の勝負をしたという自負はある。

 引退後、プロのコーチや中大の監督になって、選手には「たとえ170キロの球を放ろうが、思ったところに投げられなければ意味はない」と制球力の大切さを説いた。150キロの球でも、甘く入ればプロの打者は打つ。

 この日、佐々木朗は105球を投げて、ボール球は23球。3ボールとした打席は1度しかなかった。本格派にして球が荒れない。変化球の制球もいい。とんでもない才能だ。160キロ超の剛速球より、それを狙ったところに投げられる制球力を私は評価したい。

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