球団社長に胸の内をぶつけると米田投手コーチから秋季キャンプに誘われた
■「オレが見るから」
その数日後のこと。新たに投手コーチに就任した米田哲也さんが、藤井寺球場の秋季練習終了後に声を掛けてきた。
「阿波野、宮崎の日向キャンプに行くぞ!」
「僕、メンバーに入ってませんけど」
「いや、自分も見たいから行こうじゃないか」
米田さんの気持ちはうれしかったけれども、いったん、メンバーから外れたのは、すでに自分の評価がある程度、定まっているということだ。それにキャンプには鈴木監督もいる。
「そこに行ってアピールすることも特に自分にはないです。それでも行くんですか?」
「まあまあ……オレがちゃんと見るから」
米田さんにそこまで言われて、クビを横に振るわけにはいかなかった。
いまにして思えば、米田さんが一緒に日向に行こうと言ってくれたのは、私が前田社長に自分の気持ちを打ち明けた数日後だ。あるいは前田社長の意をくんで、必要ないなら移籍も辞さないと言った私の気持ちをなだめようとしてくれたのかもしれない。