インドネシア代表アルハン(東京V)はASEANの新しいアイコンになりうる
12年振りとなった東京ダービーに沸いた味の素スタジアムへ向う車中。スマートフォンに飛び込んできたスターティングラインナップを(車を停めて)見て、思わずにやけてしまった。予想していたプラタマ・アルハン(東京ヴェルディ)のスタメン出場が見事に的中したことが理由だ。
来日して1年半、出場した公式戦はこの日でわずか3試合。なぜにアルハンをそこまで気にするのか? チャナティップ(前川崎フロンターレ/タイ代表)がJリーグを去った現在、東南アジアのフットボールシーンを追い掛ける筆者にとっては、タイ人選手に代わるASEANアイコンになり得るかも知れない──と密かに彼に期待を寄せているからに他ならない。彼の未来は、Jリーグの未来をも担っていると言っても過言ではないからだ。
日本ではあまり知られていないが、インドネシアA代表とU-23代表を掛け持ちするアルハン。両チームを兼務するシン・テヨン監督に見出された彼は、両翼を攻撃基点のひとつと考える監督のスタイルに合致し、左サイドで攻撃の起点となり重宝がられている存在なのだ。
昨年6月(A代表/アジアカップ最終予選)、11月(A代表/東南アジア選手権)、今年4月(U-22代表/SEA-GAMES=優勝)、6月(A代表/親善試合)と1年半の間に4度、それぞれ長い期間、代表招集されて帰国している。
先月19日、ジャカルタで行われた世界王者アルゼンチン代表を迎えた親善試合にも出場。東京ダービーで観衆を唸らせたロングスローは、ヤクブ・スウォビィク同様、エミリアーノ・マルチネスをも困惑させていた。
■インドネシア協会トヒル会長の恐ろしい程の野心
なぜアルハンの動向を気にし続け、そんなにもインドネシアを注視するのか。もうひとつ、強い理由がある。
著しい経済発展に比例したフットボール事情が、えらく賑やかな国の代表選手だからだ。特に今年2月にエリック・トヒル氏がインドネシアサッカー協会の会長に就いてからというもの、新会長が織り成す勢いと政治力には恐ろしい程の野心を感じている。
エリック・トヒル。インドネシア有数のコングロマリット「アストラ・インターナショナル」共同オーナーのひとりであったテディ・トヒルを実父に持つ彼は、長友佑都がインテルで活躍していた当時、インテリスタから今もなお、愛され続けるマッシモ・モラッティから株式を買収してオーナーとなった大物インドネシア人実業家と言えば、おわかりになる日本のファンもいるかも知れない。
またNBAのフィラデルフィア76ersやMLSのD.C.ユナイテッドの共同オーナーをも歴任していた彼が繰り出す、ど迫力の速効性でインドネシアサッカーに変革をもたらしている。
とはいえ歴史、宗教、人種、政治などが入り乱れる大国。何かと曰くつきな話題にも事欠かない、黒歴史を持つのもインドネシアサッカーだ。
■11月のU-17W杯開催はFIFA会長との密約か
近年でも2015年、政府の現場干渉を理由に、FIFAから国際大会でのプレーを禁止する措置を下されたことがある。
また今年5月、インドネシアで開催されるはずだったFIFA・U-20ワールドカップ2023は、国民暴動(イスラム教徒が人口の大半を占めるインドネシアで以前からあったイスラエルとの対立が起因し、イスラエルが大会参加することを許さない勢力によって行われたデモや組み合わせ抽選会中止などの騒動が起きた)によってFIFAに開催権を剥奪(結果、アルゼンチンが代替開催)され、配分されてきた開発資金をも凍結されてしまったのだ。
しかし、である。その直後、追加制裁を喰わされるどころか、今年11月に行われるFIFA・U-17ワールドカップ2023開催をすぐに手繰り寄せている。これもトヒル外交の成果のひとつと言えよう。ジャンニ・インファンティーノFIFA会長との密約が交わされていたといわれても仕方のない程の交渉力には脱帽だ。
世界王者となったアルゼンチン代表の最初の外遊ツアーをジャカルタへ呼び寄せた手腕と資金力で、9月のAマッチデーではポルトガル代表とのマッチメイクも交渉中ともいわれている。
インドネシア大統領の職をも意識したトヒル氏の動きの中で、国民が熱狂するフットボールを重用していることは明らかだろうが、だとしても、会長任期である5年の間、まだまだ世間を賑わす秘策を用意しているに違いない。それもこれもインドネシアの経済発展があってのことだと理解している。