狂気の母から逃れて図書館へ
「図書室の魔法(上・下)」ジョー・ウォルトン著、茂木健訳 創元SF文庫各860円
【話題】当たり前だが、図書館にはたくさんの本がある。たくさんの本から多様な知識を得られることはもちろんだが、大量の本に囲まれることで外界から身を守るという役割も、図書館にはある。そんなことを教えてくれるのが、ヒューゴー賞・ネビュラ賞・英国幻想文学大賞の3冠を獲得した本書だ。
【あらすじ】最愛の双子の妹モルを事故で失い、自らも足にケガを負った15歳のモリは、狂気にとらわれた母親から逃れるために、一度も会ったことのない父親のもとへ引き取られることになった。それまで育ったウェールズの町の図書館にあるSF関係の本を読破するほどSF・ファンタジー好きのモリは、父もまたSF好きで、その蔵書の充実ぶりに驚喜する。
しかし、父と同居する3人の伯母の意向でモリは女子寄宿学校に入れられてしまう。ウェールズ育ちの彼女はイングランドの学校に馴染めず孤立していた。そんな彼女の救いは、学校の図書室と町の公立図書館で好きな小説を耽読すること。図書館に通ううちにSFファンの読書クラブにも参加、そこですてきなボーイフレンドに出会う。
ところが彼女には秘密があった。双子の姉妹は魔法の能力を有し、ウェールズの森でフェアリーを見ることもできたのだ。妹が死んだ後も執拗に邪悪な魔法を仕掛けてくる母親に対して、モリもまた魔法によって身を守ろうとする……。
【読みどころ】1980年前後の英国を舞台に、日記形式で少女の繊細な心象風景がつづられていくのだが、特筆すべきは、物語に出てくるおびただしい数のSFおよびファンタジー作品(時に、プラトンや「共産党宣言」なども)への言及。巻末に言及される作品一覧があり、ちょっとしたSF・ファンタジー入門ともなっている。
<石>