AIとの共存を考える本特集

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「AIVS. 教科書が読めない子どもたち」新井紀子著

「シンギュラリティー」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。AI(人工知能)研究の世界的権威であるレイ・カーツワイルが2005年に述べたもので、AIが人間の能力を超える転換点を表すもの。それは2045年にやってくるという。AIの進化は、もはや止まることはない。ならば私たちは、AIと共存する方法を探るべきだ。来るべき時に備えるための5冊を紹介しよう。



 労働市場へのAIの参入は避けられない時代となったが、AIとて万能ではなく、コミュニケーション能力や理解力、そして柔軟な判断力が求められる仕事は苦手分野だ。そのため、「AIに任せられることは任せて、人間はAIにできない仕事をすればいい」と考える人もいるだろう。

 しかしこれは、AIには肩代わりできない能力に長けている人に限った話。実は現代の日本人は、AIが苦手なことが同じように苦手になっている。中高生を対象に行った調査でも、読解力や柔軟性、発想力などの低下が明らかになっている。そして、この傾向は子ども特有のものではない。長年にわたる詰め込み式の教育は、AIで代替できる人材ばかりを養成してきたためだと本書。

 オックスフォード大学の研究チームが発表した「10~20年後まで残る仕事」によると、レクリエーション療法士や医療ソーシャルワーカー、そして消防・防災の第一線監督者など、コミュニケーション能力や柔軟な判断力が求められる仕事ばかりが並んでいる。

 AIと共存するには、AIに代替されない能力を磨くことが不可欠だ。

(東洋経済新報社 1500円+税)

「AIロボットに操られるな!」大塚寛著

 セグウェイジャパンの代表取締役社長である著者が、AIの最新技術とそれを使いこなすために人間がなすべきことを説く。

 AIを駆使したロボット技術がもっとも進んでいるのが医療分野だ。韓国では、直径80マイクロメートルの場所まで薬剤を運ぶゾウリムシ型のロボットを開発中。これが実用化されれば、治療を必要とする箇所をピンポイントで狙い撃ちできるようになる。東京大学では、世界初の音声病態分析技術の研究が進んでいる。声だけでアルツハイマー病やうつなどを検知するもので、実現すれば早期の受診や治療を促すことが可能になるという。

 今後、人間がAIを使いこなすには、デジタルから離れる時間をつくることが重要だと著者は言う。矛盾することのようだが、テクノロジーに身を委ねすぎると、依存状態となり判断力が鈍る。世界のテクノロジーを牽引するグーグル社内でも、一定時間スマホやパソコンから離れる“デジタル断食”が推奨されている。AI時代だからこそ、人間本来の力が試されるのだ。

(ポプラ社 800円+税)

「人工知能革命の真実」中島秀之、ドミニク・チェン著

 AIの進化が止まらない今、人間には「AIは脅威ではなく便利な道具」として使いこなしていく力が求められている。AIの問題はもはや技術的なものではなく、人間の価値観を再確認することだと本書。

 医療の分野でAIが活用されることは、利用者にとってメリットが大きい。手術が行えるロボットが開発されれば、医者がいない地域で役立つばかりでなく、正確無比な手術が可能になるため、医療ミスもなくなる。医療分野へのAI活用に対する反対意見は少ないだろう。

 一方、外食産業ではどうか。例えば、ミシュランで3つ星を獲得している「すきやばし次郎」の小野二郎氏の技術を完璧に再現できるAIロボットが完成したらどうか。提供される寿司は“本物”と寸分たがわないが、拒否反応を示す人が少なくないはずだ。小説や音楽など嗜好性の世界になると、それはより顕著になるだろう。

 AI時代の到来で私たちが考えなければならないのは、「AIで今後の社会をどうしたいか」ということ。そして、AIを含む情報技術に関する正しい知識を持ち、使いこなすための社会制度を変革していくことだと本書は提案している。

(ワック 920円+税)

「人工知能は資本主義を終焉させるか」齊藤元章、井上智洋著

 AIの急速な進歩がもたらす変化を、経済面からひもとく本書。AI研究者と経済学者の対談形式で、シンギュラリティー到来による変化を予測している。

 AIによる社会の大変革は、エネルギーの無料化によって始まるという。すでに世界中の研究機関で進んでいる常温核融合によるエネルギーの産出は、次世代コンピューターを活用することで実現が早まる。常温核融合によるエネルギーは小型の設備で大量生産できるため無料化が進み、連鎖的に衣食住の無料化も進む。結果的に、人間は働く必要がなくなるという社会変化も起こり得るという。

 経済的観点から見ると、AIは最終的に、人間を労働と金の問題から解き放つと予測できる。しかし、その後に問われるのは人間の根源的な価値だという。“これからは何でもしていい”と言われたとき、人間は知的探求か創造的活動に向かうはずだ。日本では働くことが美徳とされてきたが、AIの進化でその必要がなくなったとき、労働に抱いていた美徳を別の行動に振り分ける必要がある。

 まるでSFの世界の出来事のようだが、その変化は2030年ごろからやってくるかもしれないと本書。あと10年少しで、私たちの生活は大転換期に入るのかもしれない。

(PHP研究所 860円+税)

「AIに心は宿るのか」松原仁著

 シンギュラリティーの到来を私たちはどう受け止めればいいのか。そのヒントは、現在の将棋界にある。シンギュラリティーに対する態度は「ユートピア論」と「ディストピア論」に二分される。前者は、共存を進めながら人間はより高次な存在になるというもので、後者は人間がAIに滅ぼされるという考えだ。

 現在の将棋界では、共存派と保守派が絶妙なバランスを保ちながら併存している。例えば、千田翔太六段は将棋AIとの共存派。人間の棋士は完全にAIに追い抜かれていると考え、棋力を向上させるにはAIと指すことが有意義であると公言している。

 一方、佐藤康光九段は保守派であり、それまでになかった新手の検証の際にAI将棋を用いることには懐疑的。一見すると保守派の棋士は革新を阻むもののようだが、多様性を担保する上で重要な存在であると、30年以上、将棋AIを研究してきたゲーム情報学の第一人者である著者は言う。

 本書には、著者と羽生善治永世七冠との対談も収録。将棋の世界から、AIと人間の未来が見えてくる。

(集英社インターナショナル 700円+税)


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