ネット荒らしとプーチン政権のゆくえ
「プーチンのユートピア」ピーター・ポマランツェフ著池田年穂訳
一昨年の米大統領選はやはりロシアの陰謀だった! ネット荒らしで米政治にワナをかけたプーチン政権だが、足元では年金改革への猛反発に手を焼いている。
◇
亡命ソ連人の息子として英国に育ち、冷戦後にロシアのテレビ局で働いた著者。本書は彼の目に映った「リアリティー番組みたいな」現代ロシアの混乱した姿をルポした話題作だ。赤軍将校の娘からスーパーモデルになり、玉の輿に乗ったと思ったら、捨てられてニューヨークで身投げした女。金の力で念願の映画監督に転身を遂げた元ギャング。その仲間は下院議員に出世した。エリツィン時代に大暴れしたギャングはプーチン体制下で「政府の情報機関が組織犯罪を引き継いだため」稼いだ金を守らねばならなくなったのだ。
ロシアで最初の「自己啓発番組」をヒットさせたタレント心理学者からは、独断でナチ・ドイツ軍を攻撃して勝利を得ながら党中央に粛清された将軍の生きざまをドラマ化してくれ、と著者に依頼があった。そして買春ツアー反対を唱えて全裸で通りを走る女たちの番組企画は、彼女らが大統領批判に走ったとたんボツになる。
抱腹絶倒のエピソードの陰に鋭い観察眼が光る。
(慶應義塾大学出版会 2800円+税)
「ロシアの愛国主義」西山美久著
どれほど国際社会から批判されても、いや批判されるほど国内支持は高まる一方のプーチン体制。まだ30代の若手研究者による本書は、ソ連崩壊とともに失われた人々の自信を支えて政治的に利用するカギが「愛国心」だったことを解き明かす。
エリツィン政権時代には対外的な道具でしかなかった「ユーラシア主義」(非ヨーロッパとしてのロシア第一主義)、ロシア民族以外への効力が疑問視されるロシア正教など、使えそうなものは貪欲にすべて取り込むプーチンの国民統合策。その秘密がよくわかる。
(法政大学出版局 3600円+税)
「ロシアと中国反米の戦略」廣瀬陽子著
近ごろ急接近の目立つロシアと中国。しかし両者は長年、友好的とはいえない間柄だったはず。ではなぜ? 背景はむろん「米国による一極支配に対抗し、多極的世界を構築」するという共通目標があるからで、そこで互いに牽制しながら接近するという技を繰り出し合うことになる。プーチンと習近平、ともに譲らぬカリスマ独裁者。
慶応大学で比較政治学を講じる著者はロシアと中国の外交戦略を客観的に見比べる。両国のトランプ政権との関わりについての記述がほしいところだが、日本外交のとるべき指針はしっかり押さえられている。プーチンは仏国民戦線など欧州極右ときわめて近しい半面、ロシアのポピュリストは「ソ連解体をやってのけた人々」を意味し、強く警戒しているという。
(筑摩書房 820円+税)