「博奕のアンソロジー」宮内悠介編
「僕」はシンガポールのホテルで日本人の老夫婦と知り合いになり、ある日、夫人に声をかけられた。夫は妻とのディナーをキャンセルしてカジノに行ったという。
僕は夫人と川沿いのレストランで食事をすることになったが、ここのパンダン・チーズタルトは絶品だとか。料理のコースの説明を断った彼女は「私もひとつ、博奕(ばくち)をしてみようかしら」と言った。デザートにパンダン・チーズタルトが出てきたら、約束を破った罪滅ぼしに夫に新しい指輪を買ってもらう。違うものだったら、結婚指輪を川に投げ捨てて日本に帰り、夫とは二度と会わないと。そして……。(梓崎優著「獅子の町の夜」)
編者がテーマを決めて作家に執筆依頼した10編の短編。 (光文社 1600円+税)