「漁港の肉子ちゃん」西加奈子著
ひとり親世帯のうち、父子世帯に比べ母子世帯は6倍近く多く、直近5年では、同じ母子世帯の中でも未婚のシングルマザーの割合が33・8%増えている。そこで大きくのしかかってくるのが仕事の問題だ。働かなければ暮らしていけないが、忙しければ子供との時間が少なくなる。お仕事小説の多くがこの矛盾に挟まれながら懸命に働く母親を描いているが、働く母親の姿を子供の視点から描いているのが本書だ。
【あらすじ】北陸の小さな漁港の焼き肉屋「うをがし」で働く見須子菊子は38歳。151・4センチ、体重67・4キロの体形、自他共に認める不細工のため、皆肉子ちゃんと呼ぶ。関西の下町で生まれた肉子は16歳で大阪に出てスナックで働き、以後波乱の男遍歴、ぶっちゃけていえば何人もの男にだまされた揚げ句、11歳になる娘の喜久子(キクりん)を連れてこの港町に流れ着いたのだ。焼き肉屋の店主サッサンは肉子の顔を見た途端に「肉の神様が現れた」と思って即採用。事実、肉子が店に入ってから以前より繁盛しだした。
キクりんは肉子の娘とは思えないようなスラッとした美形。学校でもキクりんをめぐって女子の間に派閥争いが起こっていた。キクりんは底抜けに明るいが、だらしのない肉子をしっかり支えながら、肉子が仕事中は好きな小説を読み、夜は店でまかないを食べるという生活を送っていた。
ところが最近、肉子が夜中にひそひそ声で電話をしている。「また男ができたのか」と思って、キクりんの心は波立つ……。
【読みどころ】焼き肉屋に集まる常連の面々、母親を気遣いながらも自分の居場所を探しているキクりん、そして謎めいた肉子の過去、それらが絡み合いながら不思議な世界を紡ぎ出していく。 <石>
(幻冬舎 600円+税)