「コンサバター」一色さゆり著

公開日: 更新日:

 美術館などで展覧されている古い時代の絵画の多くは修復が施されているという。というのも、絵が描かれる下地のカンバスは温度や湿度の変化で伸び縮みを起こし、絵の具や顔料がひび割れてくるし、カンバス自体も時代が経つにつれ、穴が開いたり、劣化していくからだ。

 そうした作品の傷みをオリジナル性を保ちつつ手当てするのが修復士だ。本書の主人公は世界最古・最大の大英博物館の天才的修復士(コンサバター)。

【あらすじ】糸川晴香は大英博物館修復部門の常勤職員で紙が専門の修復士。ロンドンで修復の修士号を取った後いくつかの工房で修業を積み、大英博物館のアルバイトから常勤職員になったばかりの29歳だ。

 ようやく落ち着いたかと思ったところ、住んでいたフラットが取り壊しのため引っ越ししなくてはならなくなった。すると、日本人の父とイギリス人の母を持ち、すべての修復技術に精通している天才修復士のケント・スギモトが、自分のフラットをシェアしてもいいと助けの手を差し伸べてくれた。

 スギモトは大変な変わり者でよくない噂も多々あるが、天才の技を間近に見るチャンスと、晴香は助手役を兼ねて住まわせてもらうことに。

 そこへ大英博物館の目玉展示物の一つ、パルテノン神殿の石板が偽物とすり替えられるという事件が。上司から事件の解明を頼まれた晴香とスギモトは、事件の背景にある複雑な歴史を踏まえて真相を探っていく……。

【読みどころ】その他、江戸時代の和時計の来歴、ミイラの棺に隠されていた札束、北斎の浮世絵の真贋など、修復士の仕事とミステリーが巧みに組み合わされていく。修復士というミステリアスな仕事を垣間見ることもできる。 <石>

(幻冬舎 750円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    朝ドラ「あんぱん」教官役の瀧内公美には脱ぎまくった過去…今クールドラマ出演者たちのプチ情報

  2. 2

    中井貴一の“困り芸”は匠の技だが…「続・続・最後から二番目の恋」ファンが唱える《微妙な違和感》の正体

  3. 3

    大阪万博会場の孤島「夢洲」で水のトラブル続出の必然…トイレ故障も虫大量発生も原因は同じ

  4. 4

    渋谷区と世田谷区がマイナ保険証と資格確認書の「2枚持ち」認める…自治体の謀反がいよいよ始まった

  5. 5

    Kōki,主演「女神降臨」大爆死で木村拓哉がついに"登場"も リベンジ作品候補は「教場」か「マスカレード」シリーズか

  1. 6

    森友文書の一部欠落で財務省が回答…公表された概要リストに「安倍昭恵」の名前

  2. 7

    巨人阿部監督がオンカジ送検の増田大輝を「禊降格」しないワケ…《中心でなくても、いないと困る選手》

  3. 8

    早実初等部を凌駕する慶応幼稚舎の人脈網…パワーカップルを惹きつけるもう一つの理由

  4. 9

    オンカジ騒動 巨人オコエ瑠偉が「バクダン」投下!《楽天の先輩》実名公表に現実味

  5. 10

    迷走続く「マレリ・ホールディングス」再建…金融界の最大の懸念は日産との共倒れ