「裸の華」桜木紫乃著
企業に勤めていれば、定年があるのでいや応なく仕事の区切りがつくが、野球やサッカーといったアスリートの場合は、いつ引退するかという仕事のやめどきを決めるのは難しい。20代で早々に引退する人がいれば、50歳を過ぎても現役として活躍している人もいる。本書の主人公であるストリッパーもまたアスリート同様、己の肉体を武器に舞台に立ってきた。しかし彼女にも引退の時期がやってくる。
【あらすじ】神奈川の正月公演の舞台で骨折したストリッパーのノリカは、復帰を期してリハビリに励んでいたが、40歳という年齢もあって思うように回復せず、引退を決意する。誰にも行き先を告げずに向かったのは故郷の札幌だった。
ストリッパー人生の起点でもあるこの札幌でダンスシアターの店を開くことにしたのだ。親切な不動産屋、竜崎のおかげで踊りにうってつけの店が見つかり、竜崎はそのままバーテンダーとして店に入ってくれるという。竜崎は銀座で鳴らした腕利きのバーテンダーで、彼のカクテルが店の目玉になる。おまけに竜崎の紹介で2人の若いダンサーも確保できた。
瑞穂は踊りは並だが明るい笑顔でお客を引き込む。一方のみのりは愛想がないが踊りのうまさはずぬけている。この対照的な2人の踊りは評判を呼び、店の売り上げも順調に伸びていく。若い2人の急速な成長ぶりを喜ぶ一方で、ノリカは、自分の心の内にもう一度舞台で踊りたいという欲望がふつふつとたぎっていることに気がつく……。
【読みどころ】踊り続けたいと思いながらも肉体の限界に向き合わざるを得ないノリカの矜恃と葛藤は、アスリートのみならず好きな仕事に携わっている人たちの共感を呼ぶことだろう。 <石>
(集英社700円+税)