「社奴」森村誠一著
「社奴」とは、文字通り会社の奴隷のこと。本書の親本が刊行されたのは1984年だが、その後、会社に飼いならされた会社員を示す「社畜」という言葉も登場した。
本来、従業員は求められる仕事をすることで雇用主(会社)からその対価を得るのだから対等であるはずだが、現実は会社の都合で給料を下げられたり解雇を告げられたり、とても対等とは言い難い。本書はそうした会社と個人の不公平な関係を鋭くついた社会派ミステリーだ。
【あらすじ】家田幹朗は大手建設会社の営業課長だが、実質は次期社長の有力候補の常務の非公式秘書だ。常務の懐刀として仕えているが、社内では脳卒中で軽い麻痺のある常務の用便の都度、お尻を拭く「お拭き屋さん」だと揶揄されている。
家田は常務に命じられて、会社の後ろ盾になっている大蔵大臣の愛人の元へ賄賂を届けていた。折から国家的な大型建設プロジェクトが持ち上がり、家田が受注のため元総理への多額の献金を納めに行くと、相手の秘書は大学時代の同好会の仲間の北杉だった。
一方、常務のライバルの専務夫人は同じ同好会で仲間たちから女神とあがめられていた美弥子。そこへ大臣の愛人が殺される事件が起こり、家田は有力容疑者となる。さらに大型建設プロジェクトにおける政界への賄賂疑惑に対して東京地検特捜部が動きだすが、その担当がやはり同好会の仲間の隅野だった。
卒業から10年を経て再会した4人の男女それぞれの仕事と人生が奇妙に交差していく……。
【読みどころ】社内の内部抗争に巻き込まれた揚げ句、すべての責任を押しつけられ一度は会社を見限りながらも、どこかで奴隷であることを受け入れてしまう家田の姿は、痛ましくも哀れだ。
<石>
(集英社 640円+税)