「夜明けのすべて」瀬尾まいこ著
藤沢美紗はPMS(月経前症候群)に悩む28歳だ。これは月経が近づくといらいらしてきて、精神が不安定になるというもの。人によっては不安で眠れなくなったり、無気力になったりもするが、彼女の場合は攻撃的になってしまう。周りが見えなくなり、歯止めもきかなくなって、怒りを爆発しきるまで治まらなくなる。
もちろん病院に通っているが、薬を飲むと今度は無性に眠くなり、会議室で寝てしまったのを契機に退社することになる。
もう一人の主役、山添孝俊はパニック障害に苦しむ26歳。漠然とした重苦しい不安が襲ってくる。体中がぞわぞわと騒いで落ちつかない状態に、突然なる。何が原因かわからない。医者には心因性と診断される。電車に乗っていて、そうなると呼吸が乱れてくるから、電車にも乗れないのだ。
本書は、この2人が社員6人の栗田金属に再就職して始まる物語だ(山添君は徒歩で通勤する)。けっして笑い事ではないのだが、美紗が山添君の部屋に押しかけて、床屋に行けない彼のために髪を切ってあげたり、あるいは唐突に歌をうたいはじめるくだりは無性におかしい。
社長をはじめ、栗田金属のみんなが理解ある人であるのも大きいが、読んでいると優しい気持ちになってくる。そんなに急ぐことはない。ゆっくりと生きればいい――そんな気持ちになってくる。これはそういう小説だ。
(水鈴社 1500円+税)