「ルポ東尋坊」下地毅著
福井県坂井市にある東尋坊。2010年、この地で一人の男性が「NGO 月光仮面」を名乗って自殺防止活動を始めた。定期パトロールは水曜と土曜の週2回だが、東尋坊の近くにある2台の公衆電話ボックスに置いた月光仮面の名刺を見て電話をかけてくる者がいれば、すぐに駆けつける。10年前、名刺を置いて最初に電話をかけてきたのが28歳のマサキだった。
継父に虐待され育ったマサキは、26歳の頃から自殺未遂を繰り返し、あるとき訪れた東尋坊で、ふと公衆電話が目に入った。中にあった名刺に電話をかけると、月光仮面がすぐに駆けつけてきて「電話をかけてきたってことは生きたいってことだよね」。
月光仮面に手伝ってもらって生活保護を申請し、1カ月後には東尋坊近くのアパートで一人暮らしをスタート。今はそのマサキが、真っ先にSOSの電話の主の元に駆けつける役割を担っている。
同居の男から暴力を振るわれ、両親の位牌(いはい)を持って東尋坊にやってきたリカコ(52歳)、派遣切りで収入が途絶えたオサム(42歳)ら、保護された人々の人生と、その活動をルポルタージュ。自殺防止にとどまらず自立を促していく過程では、支援者たちの温かさの半面、生保申請をあの手この手で受け付けない窓口の冷たさ、自殺以外に解決策がないと思い込まされる現代社会のありさまが透けて見える。
(緑風出版 2400円+税)