北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「俺達の日常にはバッセンが足りない」三羽省吾著

公開日: 更新日:

 バッセンとは、バッティングセンターのことで、昔はあちこちあったのに最近はめったに見かけない、とエージは言うのだ。大人も子供もたむろして楽しい場所であったのに、ああいう場所がないのは寂しい、と彼は言う。

 問題は、だから俺たちでつくろうとエージが言いだすこと。というのはこのエージ、「昔からふざけていて、授業などまともに受けず、友達を利用して、ときには裏切り、約束を簡単に破り、借りた金を返さず、強くないくせに喧嘩っ早く、どんな仕事をやっても長続きせず、おんなにだらしがない」男だから信用できないのだ。

 それでも中学の同級生たちは巻き込まれていく。土建業の家に生まれながらいまだに電話番すらまともにできないシンジ、中2までは女子最強と言われていたが、男子高校生を5秒で昏倒させた瞬間、称号から女子が取れた阿久津ミナ(現在は地元の信用金庫で窓口担当)。さらに、田舎ではあるけれど地域ナンバーワンのホストになっているアツヤ。

 彼らの事情とドラマが、バッセン事業の立ち上げと並行して語られていくのだが、これが読ませるから物語にぐんぐん引きずりこまれていく。仲のよかった同級生でもこの話に乗らないやつもいたりするから、それも妙にリアルだ。そしていちばんは、読んでいるうちに自然と、バッセンは私たちの生活に本当に必要かもしれない、という気になってくることだ。まったく不思議なことである。

 (双葉社 1980円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2
    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

  3. 3
    巨人入り若林楽人「4番気取り」なら新天地でも“塩漬け”不可避…打撃に求められる意識改革

    巨人入り若林楽人「4番気取り」なら新天地でも“塩漬け”不可避…打撃に求められる意識改革

  4. 4
    南果歩は艱難辛苦を乗り越え60歳で“玉”になった 夫の不倫が原因で2度離婚も初孫誕生に歓喜

    南果歩は艱難辛苦を乗り越え60歳で“玉”になった 夫の不倫が原因で2度離婚も初孫誕生に歓喜

  5. 5
    巨人が「同ポジション」緊急トレードで企む真の狙い…松原を西武に放出、若林を獲得

    巨人が「同ポジション」緊急トレードで企む真の狙い…松原を西武に放出、若林を獲得

  1. 6
    フジテレビ起死回生の秘策?「古畑任三郎」復活プロジェクトに挙がる主演候補5人の名前

    フジテレビ起死回生の秘策?「古畑任三郎」復活プロジェクトに挙がる主演候補5人の名前

  2. 7
    大谷の「ホームランダービー」は見納めか…心身の負担を考慮すれば今回がラストチャンス

    大谷の「ホームランダービー」は見納めか…心身の負担を考慮すれば今回がラストチャンス

  3. 8
    グタグダ維新が内部分裂危機…都知事選“掟破り”の「石丸支援者」続出で小池知事は票減らす恐れ

    グタグダ維新が内部分裂危機…都知事選“掟破り”の「石丸支援者」続出で小池知事は票減らす恐れ

  4. 9
    大阪万博はうっすらウンコ臭い? “腐った卵”硫化水素が流出も「対策これから」の体たらく

    大阪万博はうっすらウンコ臭い? “腐った卵”硫化水素が流出も「対策これから」の体たらく

  5. 10
    もう「草サッカーのレベル」なのに…キング・カズ「還暦プロサッカー選手」に現実味

    もう「草サッカーのレベル」なのに…キング・カズ「還暦プロサッカー選手」に現実味