著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「神欺く皇子」三川みり著

公開日: 更新日:

 ライトノベルを読んでいると、異世界に飛ぶ話と、時間線を遡るタイムスリップものが少なくないので、いささか食傷気味である。この2つをモチーフにしたものは嫌いではないので、そういう作品が多いのはうれしいのだが、あまりに多いと「またかよ」と読む前から疲れてくる。しかし、中にはすごいやつがあるのだ。それが本書だ。

 大地の底に竜が眠る国を舞台にした異世界ファンタジーだが、その竜の声を聞けない女子(遊子)と、逆に聞こえる男子(禍皇子)が、この国では忌み嫌われているというのが、物語の前提だ。主人公の日織は、遊子であるという理由だけで姉が殺されたことを嘆き、怒り、王たらんとする。この国の王になって、そういう風習を変革したいのである。つまり差別をなくすための戦いだ。

 当然、敵対者もいて、味方もいて、それらの個性豊かな人物が入り乱れて(このあたりは詳しく紹介したいが、スペースの関係でぐっと我慢)、王位を目指す争いが活発になっていくが、その戦いが具体的なのもいい。前王が残した箱にぴったりとおさまる竜鱗を捜し出した者が次の王なのだが、その竜鱗がどういうものであるのか誰も知らないというのもキモ。誰も知らないものをどうやって見つければいいのか。

 作者の三川みりは、2010年にデビューした作家ですでに50冊近い著作を持つが、本書は大人の読者の鑑賞にも十分に堪える作品だと思う。 (新潮社 781円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V奪還を手繰り寄せる“陰の仕事人” ファームで投手を「魔改造」、エース戸郷も菅野も心酔中

  2. 2

    ドジャース地区V逸なら大谷が“戦犯”扱いに…「50-50」達成の裏で気になるデータ

  3. 3

    大谷に懸念される「エポックメーキングの反動」…イチロー、カブレラもポストシーズンで苦しんだ

  4. 4

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 5

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  1. 6

    やす子の激走で「24時間テレビ」は“大成功”のはずが…若い視聴者からソッポで日テレ大慌て

  2. 7

    安藤サクラ「柄本佑が初めて交際した人」に驚きの声…“遊び人の父”奥田瑛二を持つ娘の苦悩

  3. 8

    堂本剛、松本潤、中山優馬…そして「HiHi Jets」髙橋優斗の退所でファンが迎えるジャニーズの終焉

  4. 9

    「光る君へ」一条天皇→「無能の鷹」ひ弱見え男子…塩野瑛久は柄本佑を超える“色っぽい男”になれる逸材

  5. 10

    虎の主砲・大山を巡り巨人阪神“場外乱闘”に突入か…メジャー挑戦濃厚な岡本の去就がカギを握る