本橋信宏(ノンフィクション作家)
11月×日 「エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論」(サイゾー 1650円)を読む。
対談ホスト役の叶井俊太郎は異色映画の宣伝プロデューサーとして有名な人物。その一方で体験人数600人、結婚4回(現在の夫人は漫画家・倉田真由美)というドン・ファンである。
膵臓癌で余命半年を告知された叶井俊太郎はそれを口実に対談相手を引っ張り出す。この対談集は呼ばれた側の死生観が問われる書でもある。
鈴木敏夫スタジオジブリ代表取締役議長。
<鈴木 ……叶井俊太郎の場合はね、これはもう、この人の生き方だから。だって遺作が『プー あくまのくまさん』だよ。これはないよねえ。
叶井 普通はないですね。
鈴木 それは死に対する冒涜でしょう。それを最期まで貫くのは叶井俊太郎らしいよね。僕なんかできないもん。もっと立派な作品を、って思っちゃう>
死はあらゆるものを等価にしてしまう。叶井俊太郎、11月22日現在健在。
11月×日 女性関係の派手な男の癌闘病記というともう1人、AV男優を想起する。
沢木和也著「伝説のAV男優 沢木和也の『終活』癌で良かった」(荒井禎雄取材 彩図社 1430円)。
食道がん・下咽頭がんで余命半年を宣告された沢木は色黒に白い歯、茶髪、ザ・AV男優だった。
「恋愛はしない。ただやりたいだけ」とうそぶく沢木は一人息子が高校進学して野球を続けられるように、からみ抜きでできる仕事をやる。
X(ツイッター)が唯一の生存確認手段になる。死の5日前、「もう無理」と最期のツイート。54歳没。
泣き言を一切言わなかった。快楽主義者は死を達観できるのか。
11月×日 山本文緒著「無人島のふたり」(新潮社 1650円)を読む。
膵臓癌を告知された直木賞作家は、死の9日前まで文章をつづった。
<明日また書けましたら、明日>
ひたむきな生命力は今なお、脈動している。