ヒジャブ姿の女性通信士に戦争のリアルを見る
「アンブッシュ」
正規軍同士が正面からぶつかり合うウクライナの戦争に目を奪われる昨今だが、むろん対テロ戦争も終わってはいない。特に中東のイエメンではサウジが支援する政府軍とイランが支える反政府勢力フーシ派の内戦が長期化。政府側にはUAE(アラブ首長国連邦)も加担する。
またサウジやUAEは西側の武器を大量購入するが、他方でUAEやトルコはロシアに兵器供給して米国が神経をとがらす。対テロ戦争は9.11後の米国に始まったが、いまや連鎖は世界地図を描き、兵器のやりとりも地下茎のように絡み合っているのだ。
そんなUAEとフランスの合作映画が年末ぎりぎりに封切りの「アンブッシュ」だ。
前線に偵察に出た兵員装甲車が待ち伏せ(アンブッシュ)攻撃に遭って立ち往生するという話だから、アメリカ映画ならベトナム戦争以来なじみの形式だが、敵も味方もアラブ人がアメリカ型の戦争アクション映像の中にいるのは何だか奇妙だ。この映画の主要なマーケットが中東であろうことを考えると、現代の「戦争」のイメージまでグローバル化していることを感じる。特に司令部の通信士官や攻撃ヘリの操縦士がヒジャブ姿の女性だったりするショットには、なおさら現代を見る思いがするのである。
監督はリュック・ベッソンのもとでカメラマンを務めたピエール・モレル。いわゆる“ジェットコースター映画”が得意な娯楽監督だからなおさらなのかもしれない。
トレイシー・ワルダー、ジェシカ・アニャ・ブラウ著「対テロ工作員になった私」(原書房 2640円)は大学卒業時の就活でCIAにリクルートされ、対テロ戦争下では海外諜報員まで務めたという女性の手記。21世紀はこのまま「戦争の世紀」になってしまうのだろうか。どうかよい年になりますようにと、祈らずにはいられない。 <生井英考>