羽鳥好之(作家)
12月×日 友人のS君と恒例の忘年ゴルフ。毎年、ゲストを招いているが、今年はS君の夫人が参戦した。なかなかの腕前。いま夫婦でラウンドするのが流行のようだが、いい光景だなあと思う。
亡くなった伊集院静さんを偲び、名著「あなたに似たゴルファーたち」(文藝春秋 715円)を本棚から引っ張り出す。ゴルフをテーマにした短編小説集だが、氏が40歳そこそこで書いたものと思えば、その人間洞察の深さにただ感服するしかない。
12月×日 万城目学さんが直木賞候補になり、候補作「八月の御所グラウンド」(文藝春秋 1760円)を読む。猛暑の中、京都御所内のグランドで、ユニホームも揃わぬ人間たちが必死の草野球を戦っている。メンバーが集まらず、ピンチに陥ったチームがたまたま引き入れた謎の名人は、戦死した伝説の名投手だった──盆の京都で展開する日本版“フィールド・オブ・ドリームス”(編注=第170回直木賞受賞)。
1月×日 島清恋愛文学賞は石川県の金沢学院大が主催、運営している。学生が選考に参加する唯一の文学賞で、その指導を要望されて、昨年から学生とともに恋愛小説を読んでいる。
芥川賞作家、町屋良平の「恋の幽霊」(朝日新聞出版 1980円)は高校の男女4人が織りなす恋愛模様を、まさに10代の目線と言葉で切り取った佳作。ある事件をきっかけにバラバラになって15年、1本のラインメッセージから物語の幕が開く。この切なさこそが、まさに恋愛小説。
1月×日 年末に2冊目の歴史小説「遊びをせんとや 古田織部断簡記」(早川書房 2200円)を上梓した。歴史小説は資料の入手と読み込みに多く時間を要する。本作も1年かかった。
呉座勇一はご存知「応仁の乱」で中世史ブームを巻き起こしたスター学者。その近刊「動乱の日本戦国史」(朝日新聞出版 891円)は関ケ原や川中島など有名な合戦に関して、長く信じられてきた通説を最新の研究をもとに丹念に検証してゆく。眼から鱗の指摘も多く、歴史好きを問わず、啓蒙書としても恰好の良書である。