水族館劇場「出雲阿國航海記」“まつろわぬ民”を鎮魂する2トンの滝の奔流
自らを中世の被差別民「河原者」の系譜に位置づけ、「野戦攻城」と銘打った野外テント芝居を35年間続けてきた水族館劇場。2年前から東京郊外の羽村市にある宗禅寺を新たな根拠地にしている。テントといっても鉄パイプで組み上げられた仮設劇場であり、下北沢あたりの小劇場が丸ごと収納されそうな巨大な舞台空間だ。
呼び物は2トンもの水を使ったスペクタクル演出。「自己模倣はしない」という桃山邑(代表で作・演出)が唯一、禁を破って舞台の「目玉」にしている大仕掛けだ。
時代から取り残され、忘れ去られた“まつろわぬ民”の情念を描いた物語が多く、今回は、ビデオカメラを担いだ現代の「全裸監督」を狂言回しに、歌舞伎のルーツといわれる出雲阿國や泉鏡花の「夜叉ケ池」の白雪姫、ベトナム戦争の時に兵役拒否をした脱走米兵、そして現代の沖縄の基地反対の住民などが時空を往還しながら交差する。
物語的整合性や明瞭なセリフ術よりも、役者の身体性に根ざした舞台はかつて唐十郎が唱えた“特権的肉体”と通じるものがある。魑魅魍魎が跳梁跋扈する異形の世界はどこかノスタルジックで詩情豊か。観客は錯綜した物語の迷宮をさまよう快楽に身を委ねる。