水族館劇場「出雲阿國航海記」“まつろわぬ民”を鎮魂する2トンの滝の奔流
桃山邑とその一党が目指すものは、既成の権力に対する反乱であり、戦いに斃れた死者への鎮魂でもある。舞台は死と生が交わり、火花を散らす。それは演劇の源流である芸能が本来持つ反権力のエネルギーといえよう。
クライマックス、沛然と水しぶきを上げる滝の奔流と共に、宙を飛ぶ阿國(千代次)の秘所から無数の蝶が虚空に飛び立つのを観客は幻視する。それは虐げられた人々の魂であり、希望といえる。
舞台を彩る役者たちが実に魅力的だ。竜神の化身・白雪姫の石井理加の凛とした立ち姿、厄災を招く暗闇天女役の風兄宇内の破天荒、アングラ演劇界の伝説・翠羅臼(山師の金蔵)の型破り芝居、本紙の風俗ライター・伊藤裕作が生臭の修験僧を演じて笑いを取った。ほかに松林彩、七ツ森左門、伊丹宗丞、秋浜立ら。
病を得た桃山が、余命を発表したことで今公演が「桃山水族館劇場」の最後になるという。いずれ、芝居の登場人物と同じく、追憶の中で新たな生を受けることになるであろう桃山には寺山修司の次の言葉を送りたい。
「時がくると、私の人生にはピリオドが打たれる。だが、父親になれた男の死はピリオドではなく、コンマなのだ。コンマは休止符であり、また次のセンテンスへとひきつがれてゆくことになる」(「墓場まで何マイル?」から)