映画で理解するパレスチナ問題(中編)報復劇のむなしさを暴いたスピルバーグ監督作「ミュンヘン」
他方、パレスチナでは、対イスラエル強硬派「ファタハ」を率いていたアラファトが69年にPLO(パレスチナ解放機構)の議長に就任。熾烈極まる武装闘争路線を推し進め国際テロを起こしていく。
72年の西ドイツ・ミュンヘン五輪では、PLO武装組織「黒い九月」がイスラエル選手団11人を殺害。スティーブン・スピルバーグ監督(写真)の「ミュンヘン」(05年)は、二度とイスラエル人を狙わせないためにゴルダ・メイア首相からPLO関係者暗殺を命じられたモサド工作員(エリック・バナ)の葛藤を描く。「なぜテロという野蛮を行うのか」と問うエリック・バナに対してアラブ人は「俺たちを野蛮にしたのはおまえらだ」と返す。本作品が公開時に物議を醸したのは、果てしない報復劇のむなしさを暴いているからだ。
76年のエンテベ空港事件を題材にしたのがジョゼ・パジーリャ監督「エンテベ空港の7日間」(18年)だ。パレスチナ解放人民戦線とドイツ過激派がエールフランス航空機をハイジャック、ウガンダのエンテベ空港に着陸させる。乗客乗員106人を人質に取り、投獄されているパレスチナ囚人の釈放を要求したのだ。イスラエル国防軍特殊部隊「サイェレット・マトカル」が国境を超えて空港を強襲、テロリスト全員を殺害して人質を救出するが、指揮官ヨナタン・ネタニヤフ中佐が敵の凶弾に倒れる。現首相ベンヤミン・ネタニヤフの実兄だ。Netflixドキュメンタリー「シモン・ペレス 生涯の軌跡-夢を信じて-」(22年)は、ペレス外相が棺を迎えネタニヤフを追悼する光景を映し出している。