【アサリの納豆チゲ】微生物と発酵のパワーで生活習慣病予防
食材の潜在能力を引き出し、花開かせる魔法
私は勤務する大学(青山学院大学)で、新入生向けに生命科学の基礎を教えている。食べ物には賞味期限(おいしく食べられる)や消費期限(安全に食べられる)があり、それを過ぎるとダメになるのは知っていると思うけど、ダメになるのは“生命現象”であることは知っていましたか?と言うと、多くの学生が「えっ」という顔をする。金属がさびたり、岩が風化するのと同じだと思っていたのかな。
食品は植物性のものであれ、動物性のものであれ、すべて他の生物のからだの一部をいただいてきたものだから、そこには生命現象が包み込まれている。そこら中に存在する微生物もたくさん付着している。だから時間が経過するにつれ、雑菌がどんどん増殖して人間が食べる前に食品を食べてしまう。その過程で臭いにおいや有害物質を作ったりもする。これがダメになるということ。正確にいえば「腐敗」である。
一方、このプロセスを上手に利用すると食品をよりおいしく、風味豊かにいただくことができる。こちらは人間の食文化の中で育まれてきた「発酵」だ。だから腐敗と発酵はコインの裏と表といえる。食材を腐敗させずに発酵させるためには、雑菌でなく、ちゃんとした良菌と条件を選ばなければならない。納豆には納豆菌、キムチには乳酸菌である。これらの菌は酵素による分解力が強いので、タンパク質をアミノ酸に変え、炭水化物を糖に変えてくれる。つまりうま味や甘味が増す。また菌の代謝作用によって香味成分や酸味成分が出る。つまり、発酵は食材の潜在能力を引き出し、花開かせる魔法といえる。発酵は日本をはじめアジアの食文化の得意技。細工は流々、仕上げをご覧じろ。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国 」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。
※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。