熱に強い納豆菌と弱いナットウキナーゼをおいしく効果的に
タンパク質、アミノ酸、オリゴ糖、善玉腸内細菌…理想的な風土食
納豆ほど、日本の自然の中で育まれた典型的な風土食と呼べるものも他にはないのではないか。納豆の起源は、すでに平安時代の文書記録にまで遡れるという。蒸した大豆を発酵させたものが納豆。この発酵に使われるのが納豆菌。納豆菌の正体は枯草菌(バチルス)。
その名の通り、稲わらなどに常在する。稲わらにはもちろん他の雑菌も存在するので、単に大豆が稲わらに触れただけだと、納豆にはならずカビが生えたり腐ったりしてしまう。おそらく昔の誰かが、大豆を稲わらに包んで、稲わらごと蒸して、そのまま放置してしまったのだろう。
開けてびっくり、たいへんおいしい食品に変身していた。稲わらを加熱すると雑菌のほとんどは死滅する。しかし、枯草菌は胞子をつくり熱に耐える。その結果、枯草菌の強力な酵素によって栄養素が分解され、うま味が開いた納豆ができた。今では、稲わらではなく、純粋に培養された納豆菌がパッケージに塗布されて納豆は量産される。
納豆には大豆由来の豊富なタンパク質と、その分解産物であるうま味アミノ酸、ビタミン類、腸内の善玉細菌のエサになるオリゴ糖などが含まれ、納豆菌自身も善玉腸内細菌となりうる。こんなに健康に良い風土食もない。ネバネバの糸はポリグルタミン酸。時間がたつと分解され、グルタミン酸となり、うま味が増す。なので、納豆をおいしく食べるコツは、何度もかき回すことではなく、かき回してから少し常温でおいて熟成を進めることである。
▽福岡伸一(ふくおか・しんいち)1959年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。