「財布を盗まれた」と大騒ぎ…それがきっかけで認知症が発覚
理解できる妄想、理解を超える妄想
以前も本欄で紹介しましたが、アルツハイマー病やレビー小体型では、「妄想」がよく見られます。中でも「◎◎◎を盗られた」といった「物盗られ妄想」は、アルツハイマー病の妄想の75%を占めるという報告もあり、女性に多いとも指摘されています。
「物盗られ妄想」も含め、認知症での妄想の場合、どちらかというと「理解できる妄想」です。物盗られ妄想であれば、「自分が大事にしまった物の置き場所がわからなくなった」→「だれか(よくあるのは、身近にいる親しい人)が盗った」となってしまう。たとえばですが、「神様が天から降りてきて持っていった」「自分が天皇家の親戚だから強盗に入られた」といった、「理解を超える妄想」とは違います。
そういった認知症の妄想に対して、周囲が「盗まれていない」と正論をぶつけても、本人を混乱させ、不安に陥らせるだけです。
本人が「盗まれた」と言うのを頭ごなしに否定はせず、「まずは捜してみようか」と一緒に見て回る。そうやって見つかったら、「よかったね、ここにあったね」と言うので十分。「ほら、やっぱり盗まれてなかったでしょ」と責めない。
そして、ここで重要なのは、認知症で起こっているあれやこれやをすべて一緒にして、「困った、困った」としないこと。起きている内容に対して、対処は異なります。物盗られ妄想であれば、前述のように、まずは許容し、相手に寄り添う。
通販で不要なものを購入することに対しては、現実的な対応を。通販会社に連絡し、勝手に購入できないよう手続きを取る。
そして何より重要なのは、認知症患者を多く受け入れている医師の診断を受け、患者さんの状態に応じた対策を講じること。認知機能の低下のスピードを緩める薬が必要な場合もあれば、夜眠れていない患者さんにはその原因を探り睡眠を取れるようにすることが必要な場合もあります。対応はさまざまです。
男性によくよく聞くと、お母さんは病院に行っておらず、実は認知症のきちんとした診断もまだ受けていませんでした。「心配だから、一緒に病院へ行こう」と、お母さんに働きかけるところから始めると、男性は話していました。