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新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

アルツハイマー病の新薬は認知機能低下を7カ月半遅らせる

公開日: 更新日:

軽度な状態が2~3年延長

 私たちの体には、異物が入ってくるとそれに対して抗体を作り、異物を無毒化する機能が備わっています。この仕組みを利用した薬が抗体医薬。レカネマブも、抗体医薬になります。アミロイドβに反応する抗体医薬で、これを投与し、脳内のアミロイドβを除去するのです。

 ワクチン接種で体内にアミロイドβの抗体を作り、アミロイドβを除去する方法は、動物実験では成功したものの、ヒトを対象にした臨床試験で数%の患者さんに重大な副作用が見られ、中止となりました。

 そこで次に試みられたのが、アミロイドβに反応する抗体医薬を作り、投与する方法です。

 バピネウズマブ、ソラネズマブ、アデュカヌマブ……。アミロイドβの抗体医薬はこれまでに複数開発され、臨床研究が行われてきました。いよいよ日本でも抗体医薬が承認かと、期待が高まったのが2021年です。

 アデュカヌマブの大規模臨床試験で認知機能低下を22%遅らせるという結果が出たのですが、それは臨床試験を途中で「効果は見られない」と中断した後に追加で集めたデータで解析し直したもの、しかも2つの大規模のうち一方だけで出た結果であったことから、日本では承認は見送り。アメリカでは20年、FDA諮問委員会が承認を支持しないことを表明したものの、21年に条件付き承認(一時的な承認。新たな臨床試験の結果で正式承認かどうかの判断)となっています。

 一方、レカネマブは、臨床試験の主要な評価項目すべてで効果を発揮。アメリカでは、日本に先駆けて7月に正式承認となっています。

 レカネマブと、これまでの薬とは何が違うのか?

 アルツハイマー病の主な薬としてこれまであったのは、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬。脳内ホルモンの補充や神経細胞障害を防ぐ薬で、対症療法(症状を和らげる)として使われていました。

 レカネマブをはじめとする抗体医薬は、原因物質アミロイドβを除去して、認知機能が落ちていくのを食い止めようとする薬です。国際的なアルツハイマー会議で発表された内容によると、レカネマブ投与群は、プラセボ(偽薬)群に対し、認知機能の低下を7カ月半遅らせられるとのこと。

 また別のシミュレーションでは、アルツハイマー病が軽度な状態で持続する期間が2年半から3年1カ月延びる可能性があると示されています。

 アルツハイマー病は、発症前から生活習慣の改善、適度な運動、脳を活性化する活動などを取り入れることで、発症時期や進行のスピードを遅らせられる可能性がある。ここにレカネマブなどの抗体医薬が加われば、また違った展開になるかもしれない……。そう私は考えています。

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