長寿研究のいまを知る(6)老化細胞を取り除く「ワクチン」「薬」は競争が激化している
さらに、人間なら70歳代の高齢マウスにこのワクチンを投与したところ、運動量や歩行速度が50歳代のマウス並みに改善し、フレイル(加齢や疾患により心身が老い衰えた状態)の進行が抑制されたという。
一方、老化細胞内で細胞死のプログラムを誘導する、セノリティックスと呼ばれる老化除去薬の開発も進んでいる。
「2021年に東京大学の研究グループが老化細胞だけを取り除くことに成功したと発表しました。老化細胞が生存するのに必要な遺伝子群を探索した結果、GLS1と呼ばれる遺伝子が関係していることを見つけ、老齢マウスにGLS1阻害剤を投与すると、さまざまな組織や臓器の老化細胞が除去され、加齢現象が有意に改善したというのです。GLS1は、グルタミンをグルタミン酸に変える酵素で、その過程でアルカリ性のアンモニアを大量に作ります。一方、老化した細胞は本来、酸性化して死んでいくのですが、GLS1を活性化することで細胞内が中和され、生き延びている。そこでGLS1阻害剤でそれを阻止して生き残れないようにするのです。興味深いのは、とくに肥満性糖尿病、動脈硬化、非アルコール性脂肪肝の改善に有効であり、筋力の維持にもつながったことが報告されたのです」 (つづく)