著者のコラム一覧
奥野修司ノンフィクション作家

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「本当は危ない国産食品 」(新潮新書)がある。

重度認知症の彼らがよく使う「怒られる」という言葉の意味

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「楽しかったねえ」

 身の回りのことはすぐ忘れても、楽しかったことや怖かったことなど感情が伴うと、時間が経っても覚えているのだ。

 もう一人紹介したいのが喜一さんだ。息子夫婦と2世帯住宅に住んでいた。普段から妻が家長のように振る舞ってきたせいか認知症になると妻は喜一さんの前で「ボケるなんて情けない!」などとこぼした。すると夫婦喧嘩になって喜一さんは家を飛び出し、徘徊するようになった。息子の秀正さんは、なんとか母親の態度を変えさせようと説得し、認知症の勉強会にも連れて行った。

 ところが納得したかに見えても、すぐに夫婦喧嘩を始める。それでも根気よく続けると次第に母親は変化を見せた。それまで朝は「起きなさいよ!」と怒鳴り声で起こしていたのに、「朝ですよ。起きてください」になった。すると夫の喜一さんに笑顔が戻り、妻の料理を「おいしいね」と褒めるようになったのだ。

 それに加え、喜一さんは小さい頃に夢中になった将棋をデイケア施設で再発見したらしく、施設が居場所になった。居場所ができると安心するのか周辺症状も出なくなると聞くが、喜一さんもその一人だった。

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