権藤博×二宮清純 平成“トルネード旋風”野茂英雄を語る<4>

公開日: 更新日:

二宮 それにしても野茂は、日米でどんなに実績を残しても全く変わりませんでしたね。

権藤 最近、彼から誘われて(野茂が代表理事を務める社会人野球のクラブチーム、NOMOベースボールクラブが本拠地とする兵庫県の)城崎温泉に行くんです。そこで、練習を見て、夜に野茂と食事をしながらいろいろな話をするんですが、たまに「(夕食は)弁当でいいですか?」とコンビニの弁当を持ってくるんだよ(笑い)。気取らないというか、飾らないんだね。無理したり、取り繕ったりしない。それで、弁当を食いながら夢中で野球の話をする。それが楽しいんです。

二宮 彼が米国でマイナー落ちした際、励まそうと国際電話をかけたら、「早くこっちに来てくださいよ。空気はうまいし、ボールがよく飛ぶので、気持ちいいくらいでかいホームランが見られます」なんて言う。どこにいても全く変わらない。ドジャース1年目のロッカールームでは、こんなことがあった。当時、ラウル・モンデシーという選手がチームにいた。

権藤 強肩の外野手の。

二宮 そのモンデシーが試合後にバットをガンガン叩きつけて、暴れているんです。その隣で野茂はファンレターを読んでいた(笑い)。危ないよ、ケガでもしたら大変だと言ったら、「勝手にやらせておけばいいんです。そのうちいなくなりますよ」と平然としていた。

権藤 技術的には、球種は基本的に真っすぐとフォークの2種類だけだったけど、フォークでも強弱をつけて何種類も投げていた。あれだけの真っすぐとフォークがあれば2つで十分。今の投手は球種を持ちすぎです。野茂はピッチングも堂々としていた。

二宮 一度、なぜスライダーを投げないの? と聞いたことがある。すると、「人間の目は横に2つ。ということは、横の変化にはついていける。しかし、縦の変化にはついていきにくい。だからフォークが効果的なんです」と答えた。天才的な発想だなと。確かに、野茂の投球を見ると、打者の目線を一度、上に吊るんですよね。上に吊ってからストンと落とす。

権藤 それと野茂のフォークは真っすぐと見分けがつかない。例えば、村田兆治のフォークは落差はすごいけど、ボールは無回転。だから落ちるんだけど、野茂のそれは回転する。大魔神佐々木もそう。ボールが回転してるから打者は真っすぐと見分けがつかない。

――改めて、取材対象者としての野茂の魅力は?

二宮 目の前に開かない扉があったとします。そのとき、人間は2通りに分かれる。器用に鍵穴を開けようとする人間と、ドアごと吹っ飛ばそうとする人間。私は後者に魅力を感じる。開かないんだったら、体ごとぶつかってドアをぶっ壊しますよと。だから野茂は時代を変えられた。

権藤 いずれにしろ、野茂はプロ中のプロ。私はただの飲み友達ですけど(笑い)。

 (構成=森本啓士/日刊ゲンダイ)

▽のも・ひでお 1968年、大阪府生まれ。89年ドラフトで史上最多の8球団が競合した末に近鉄入り。1年目に18勝を挙げ、最多勝、防御率、奪三振、新人王、沢村賞、MVPなどタイトルを独占。1年目から4年連続最多勝を獲得し、95年にドジャース入り。2度のノーヒットノーランを達成するなど、メジャー12年間で通算123勝(109敗)を挙げ、米国でも社会現象を巻き起こした。日米通算201勝155敗、3122奪三振。

▽ごんどう・ひろし 1938年、佐賀県生まれ。61年に中日に入団して35勝、30勝と2年連続で最多勝を獲得。現役引退後は中日、近鉄、ダイエー、横浜でコーチを歴任し、98年に監督に就任した横浜で38年ぶりの日本一を達成した。17年のWBCでは日本代表の投手コーチを務めた。

▽にのみや・せいじゅん 1960年、愛媛県生まれ。フリーのスポーツジャーナリストとして国内外で取材活動を展開。メジャーリーグ関連著書に「夢と闘争―野茂英雄の反骨人生」「摩天楼のダグアウト」など。権藤氏との共著「継投論」が好評発売中。2000年から株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    岡田阪神は「老将の大暴走」状態…選手フロントが困惑、“公開処刑”にコーチも委縮

  2. 2

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  3. 3

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  4. 4

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  5. 5

    中日・根尾昂に投打で「限界説」…一軍復帰登板の大炎上で突きつけられた厳しい現実

  1. 6

    安倍派裏金幹部6人「10.27総選挙」の明と暗…候補乱立の野党は“再選”を許してしまうのか

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    79年の紅白で「カサブランカ・ダンディ」を歌った数時間後、80年元旦に「TOKIO」を歌った

  4. 9

    阪神岡田監督は連覇達成でも「解任」だった…背景に《阪神電鉄への人事権「大政奉還」》

  5. 10

    《スチュワート・ジュニアの巻》時間と共に解きほぐれた米ドラフト1巡目のプライド