【認知症】高齢化社会の宿命で認知症患者は増加するばかり。「治らない病気」認知症とどう向き合うか。
「治さなくてよい認知症」上田諭著
認知症は治らない、治せないのが常識。しかしその思い込みが逆に人を縛るのだと説く本書の著者は、新聞記者を経て医学部に入り直し、精神科医として老人医療に取り組んできたという異色の経歴の持ち主。本書は認知症を「治さなくていい、治らなくていい」と考えよう、と呼びかける。
家族が認知症になると「大変だ、このまま介護ばかりじゃ身がもたない」と考えがち。しかし物忘れした本人が不安や孤独に陥るのは、周囲が物忘れをとがめ、ダメなことのように扱うため。だから認知症の本人は反発し、怒り、孤独に陥るのだ。
大事なのは「自己肯定感や自己効力感の回復」。たとえば夫の認知症で医者を訪れた老夫婦に対して、医者が妻の話をくわしく聞き、暴言や断りなしの外出などの症状をもとに薬を処方。ところが帰宅後、夫は「あの医者は自分の話をまったく聞かなかった」と言って怒り出し、薬を飲むのも拒否したという。
そこで新たに担当した著者は妻に向かって、夫を「自分のペースに合わせようとしないこと」を勧めた。介護に苦しむ妻は最初はむっとしたが、勝手に外出してもこれまでのようにとがめず、黙ってついていくなどし始めたところ、夫が穏やかになり、生活全体の質が上がったのだ。