平穏だが退屈な田舎町で男たちが再会し…

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 樹木希林と市原悦子があいついで亡くなって、ふたりを称える記事が目立った。しかし彼女らはあくまで対照的な女優。若くして新劇のスターだった市原は堂々たる舞台芝居で、テレビに出ても画面からはみ出そうな迫力と存在感があった。対する樹木は、新劇とはいえ研究生上がりからテレビでハマリ役を得たぶん小芝居が多く、そのみみっちさを逆に芸風とする個性だった。

 そんなふたりが「平成最後の」大女優とされたのは面白いが、では彼女らの衣鉢を継ぐ次代の女優はといえば……やはり池脇千鶴か。その実力を再確認したのが今週末封切りの「半世界」である。

 阪本順治監督・脚本。元SMAPの稲垣吾郎がさえない中年男役で主演というのが話題の映画だが、作品自体は派手な演出を避ける監督らしいもの。田舎町の平穏だが退屈な日常、戦地で心を病んだ元自衛隊員、時流の変化にとまどう庶民、学校でいじめの標的にされた中学生の息子……と描きようでいくらでも変わる話は「重石」がないと浮ついてしまう。

 そこで配されたのが池脇。作品を見ると彼女以外の誰もできなかったのではないかと思うほどの力量で田舎の平凡な主婦を演じている。劇中、死んだ夫の棺にすがり、「わたしも一緒に逝く!」と叫んで自分も棺に入ろうとする場面はこの映画の隠されたクライマックスだろう。

 天性のコメディーリリーフとして映画に次々起用される彼女だが、主演女優としてさらに開花するなら舞台。そのときにはぜひ21世紀の山田五十鈴をめざしてほしい。

 美馬勇作著「女優 山田五十鈴」(集英社インターナショナル)は真骨頂を伝える写真集だが、熱心なファンの個人制作という驚きの書だけに書店では入手不可。代わりに自伝「山田五十鈴 映画とともに」(日本図書センター 1800円+税)を挙げておきたい。

 <生井英考>

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