ミステリーからエロまで アンソロジー本特集

公開日: 更新日:

「ベスト本格ミステリTOP5」本格ミステリ作家クラブ編

 重めの長編小説を時間をかけて読むのもいいけれど、時には短編小説のアンソロジーを読んでみるのはいかが。幕の内弁当さながら、作家それぞれの持ち味や切り口が際立ち、改めて好きな作家が発見できるかもしれない。今回は、ミステリー、動物、患者、忍者、禁断のエロスの5テーマで厳選したアンソロジー本をご紹介!

 2014年に発表された小説・評論・研究を対象とした「ベスト本格ミステリ2015」の中から、ミステリーの目利きである選考委員がこれぞという上位5冊を厳選して文庫化した、ミステリー好きには見逃せないのが本書。

 収録されているのは芦沢央の「許されようとは思いません」、歌野晶午の「舞姫」、大山誠一郎の「心中ロミオとジュリエット」、織守きょうやの「三橋春人は花束を捨てない」、下村敦史の「死は朝、羽ばたく」の5編。本格ミステリーの王道を行く「心中ロミオとジュリエット」は、結婚を反対されていた男女が、ようやく結婚を許されたそのときに心中を図っていたとされた事件の真相が、探偵役の俳優・鹿養大介によって暴かれる安楽椅子探偵物。事件の語りから推理まで、鮮やかな筆さばきで読者を引き込む。

 (講談社 700円+税)

「世にもふしぎな動物園」小川 洋子、鹿島田真希ほか著

 房総半島の田舎町で、女子高生・陽子が通学途中に馬と遭遇する。酪農家の娘である陽子は学校まで馬に乗ろうとしたが、たどり着いたのは山の小道の突き当たりにある沼。鞍から降りた陽子が見つけたのは、額から血を流して倒れている作業着姿の男の死体だった。当日夜中にジョッキーのように馬にまたがっていた人を見たという目撃者がいたのだが……。(東川篤哉著「馬の耳に殺人」)

 本書は、ペンネームの一部に動物の名が入っている作家たちが、それぞれの動物を題材にした短編を集めた異色の動物ものアンソロジー。関西弁を話す馬、占い師に追われる兎、鹿の神様に出会った男子大学生、新聞部のネタになった鶏、座礁した貿易船から沖にたどり着いた2匹の羊など、物語の主役の座を奪うにぎやかな面々にご注目。 (PHP研究所 680円+税)

「短編アンソロジー 患者の事情」集英社文庫編集部編

 生きている限り、人はありとあらゆる病気や事故に遭い「患者」になる可能性を秘めている。本書は、そんな「患者」が描かれた14の短編を集めたアンソロジー。

 冒頭、骨折した娘とその義理の母の物語である山本文緒の「彼女の冷蔵庫」から急転直下、架空の星シャラク星の事情が描かれた筒井康隆のSF短編「顔面崩壊」、バイトで着たコスチュームが脱げなくなった男が登場する椎名誠の「パンツをはいたウルトラマン」へと続き、その世界観の違いにあっけにとられる。さらに本格的な医療物も織り交ぜたどり着いた、最終編・渡辺淳一の「薔薇連想」は圧巻。梅毒にかかったことを知った女が、男遍歴を重ねるという展開に背筋が凍る。

 日常からSF、喜劇からシリアスまでずらりとそろう、その振り幅の広さに驚かされる。

 (集英社 820円+税)

「忍者大戦 赤ノ巻」光文社文庫編集部編

 ミステリー作家による忍者小説というコンセプトの文庫本書き下ろしアンソロジー。前著「黒ノ巻」に続く第2弾で、今回は6人のミステリー作家の手腕が味わえる。

 小島正樹の「虎と風魔と真田昌幸」では、真田昌幸の命により預かっていた北条家家臣の娘を上杉家に送ることになった出浦盛清が沼田城から春日山城を目指すのだが、道中殺人が発生し、娘も姿を消してしまうという事件が起こる。毒殺と人間消失の謎を解くカギを探すあたり、ミステリー作家ならではの展開だ。

 第52回江戸川乱歩賞を受賞した鏑木蓮、第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作でデビューした吉田恭教、第21回横溝正史ミステリ大賞優秀賞などを受賞した鳥飼否宇ら、豪華なミステリー作家群による忍者の世界をご堪能あれ。

 (光文社 740円+税)

「ここから先はどうするの」澤村伊智、彩瀬まる、木原音瀬、樋口毅宏、窪美澄著

 天皇の体温・脈拍・血圧がテレビで流され、崩御のカウントダウンを告げる夜中に、秘密の営みを続ける男と女の描写から物語は始まる。普通のカップルかと思いきや、男は48歳の女の夫で、相手の女は15歳の妻の連れ子だった。女がシングルマザーだった編集者の母のもとに来た男をパパと呼び始めたのは小学5年のとき。母親が書いた小説がヒットを飛ばして売れっ子になっていく一方で、義理の父と娘の関係は少しずつ変化していったのだが……。(窪美澄著「バイタルサイン」)

 本書は、禁断のエロスを描いた短編を5編収録した官能アンソロジー。官能小説を書くため他人のセックスに聞き耳をたてる小説家、性具として作られた纏足を持つ老女、ひとりの女を共有することで結びつく男と男など、タブーなきエロスが描かれている。 

 (新潮社 490円+税)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  4. 4

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 5

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  1. 6

    桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」《麦巻さん》《鈴さん》に次ぐ愛されキャラは44歳朝ドラ女優の《青葉さん》

  2. 7

    江藤拓“年貢大臣”の永田町の評判はパワハラ気質の「困った人」…農水官僚に「このバカヤロー」と八つ当たり

  3. 8

    天皇一家の生活費360万円を窃盗! 懲戒免職された25歳の侍従職は何者なのか

  4. 9

    西内まりや→引退、永野芽郁→映画公開…「ニコラ」出身女優2人についた“不条理な格差”

  5. 10

    遅すぎた江藤拓農相の“更迭”…噴飯言い訳に地元・宮崎もカンカン! 後任は小泉進次郎氏を起用ヘ