「ナチスが恐れた義足の女スパイ」ソニア・パーネル著 並木均訳

公開日: 更新日:

 第2次世界大戦中、ナチスドイツ支配下のフランスで、自由のために戦った女スパイがいた。ボルティモア生まれのアメリカ人、ヴァージニア・ホール。イギリス特殊作戦執行部(SOE)の一員としてフランス・レジスタンスに力を貸し、パルチザンを指揮して戦い、伝説となった女性である。

 女の幸せは結婚して家庭に入ること。ヴァージニアが生まれた20世紀初頭のアメリカでは、そうした価値観が一般的だったが、男勝りのヴァージニアは因習に抗った。ボーイッシュな服装を好み、ライフルで狩りをし、裸馬に乗った。夢は外交官になること。ヨーロッパでファシズムが台頭すると、それを阻止するための外交に加わりたいと熱望した。しかし、女性であることがハンディとなって挫折、辛うじて国務省事務員として海外勤務に就いた。

 トルコ赴任中、沼地でシギ狩りの最中に自分の左脚を誤射する事故に遭う。死のふちから蘇ったヴァージニアは、木製の義足を着けて仕事に復帰した。

 やがて、彼女の資質を見抜いたイギリスのエージェントに見いだされ、いよいよ本領を発揮することになる。

 ジャーナリストに身分偽装して、ナチスの傀儡政権下にあるフランスに入り込み、連合軍の目となり耳となった。美貌で長身、機知と活気にあふれたヴァージニアは、役人をはじめとする多くの協力者を獲得し、膨大なネットワークを構築していく。

 いくつものフランス名を持ち、ときには老女に変装した。血まみれの義足を引きずって冬のピレネー山脈を越えたこともあった。ナチスは神出鬼没の女を目の敵にして探したが、男たちを指揮して破壊工作を続け、連合軍の勝利に貢献した。

 アメリカに帰国後、設立されて日も浅いCIAの女性初のメンバーとなった。映画よりドラマチックな女スパイの物語は、自由と自立を求めた先駆的な女性の、男社会との戦いの記録でもある。

(中央公論新社 2700円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情