「ならずもの 井上雅博伝―― ヤフーを作った男」森功著

公開日: 更新日:

 2017年4月24日。世界の富豪が集まるビンテージカーのロードレース、カリフォルニア・ミッレ・ミリアが開幕、参加者たちは自慢の車を駆ってサンフランシスコをスタートした。翌日、1939年型の白いジャガーが、セコイアの森の中を走行中、道路から外れて巨木に激突。ドライバーは死亡した。

 ハンドルを握っていたのは井上雅博。ヤフー株式会社の社長として日本のインターネットを立ち上げた男である。ヤフーを去って5年、ぜいたくな趣味に没頭する夢のような日々は唐突に終わりを告げた。還暦を過ぎたばかりだった。後継者に「日本一成功したサラリーマン」と言わしめた人物の生涯をたどったノンフィクション。

 井上は、ごく普通の庶民の子供だった。都営のマンモス団地で生まれ育ち、区立中学、都立高校を経て理科大に進んだ。学生時代、PC開発のパイオニアのソード電算機システムでアルバイトを始め、PCにハマった。

 ここから人生が一変する。PCオタクは若きカリスマ経営者、孫正義に見いだされ、才能を開花させていく。米国のITベンチャー、ヤフー・インクへの投資は大成功。ソフトバンクの社長室の一角で誕生したヤフー株式会社は、みるみるうちに巨大IT企業へと成長を遂げ、株式上場に伴って社長の井上は大富豪になった。箱根やハワイの豪壮な別邸、プライベートなフレンチレストラン、クラシックカーやワインのコレクション……。次の人生への準備のように趣味の世界を広げ、オタクぶりを発揮した。

 50代半ば、働き盛りの井上は、「俺がつくったものは全部壊せ」と言い残してヤフーを去った。その後、一切仕事をしなかった。なぜなのか。

 謎の多い井上の人生が関係者の膨大な証言によって徐々に明らかになっていく。その背景に、IT業界の急激な進化のプロセスと栄枯盛衰が浮かび上がってきて、興味は尽きない。

(講談社 1700円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  4. 4

    永野芽郁は大河とラジオは先手を打つように辞退したが…今のところ「謹慎」の発表がない理由

  5. 5

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  1. 6

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  2. 7

    威圧的指導に選手反発、脱走者まで…新体操強化本部長パワハラ指導の根源はロシア依存

  3. 8

    ガーシー氏“暴露”…元アイドルらが王族らに買われる闇オーディション「サウジ案件」を業界人語る

  4. 9

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  5. 10

    内野聖陽が見せる父親の背中…15年ぶり主演ドラマ「PJ」は《パワハラ》《愛情》《ホームドラマ》の「ちゃんぽん」だ