著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「プエルトリコ行き477便」 ジュリー・クラーク著 久賀美緒訳

公開日: 更新日:

 ここには2人の女性が登場する。まず、クレア。上院議員選挙への立候補を予定している大金持ちの夫(実はパワハラ男)の暴力から逃れたいと思っている女性だ。もうひとりのヒロインは、エヴァ。彼女はドラッグ販売組織から抜け出したいと願っている。

 この2人がニューヨークのジョン・F・ケネディ空港で出会い、互いの航空券を交換する。自分ではない誰かになって目的地で降り、そのまま街中に消えれば、自分の痕跡を消すことができる。彼女たちはそう考えるのだが、事態が複雑になるのは、クレアの航空チケットを持ってエヴァが搭乗したプエルトリコ行き477便が墜落してしまうからだ。96人の乗客の生存はほぼ絶望と報道されるのだが、のちに、クレアの名前でエヴァが乗った座席には誰も座っていないことが判明する。航空チケットをスキャンしたあとに搭乗しないなんてことができるのか。エヴァはどこに消えたのか。

 一方のクレアは、手に持ったエヴァの携帯電話が鳴り、「すぐに電話しろ」というメッセージ。エヴァがどんな状況にいて、何に悩んでいたのか、クレアはまったく知らなかったのだが、その苦境をクレアは引き継いでしまったのである。パワハラ夫の魔手から本当に逃げ切ることができるのか、エヴァを追いかけてくる男たちを振り払うことができるのか。クレアの必死の逃避行がここからスリル満点に始まっていく。拾いものの一冊だ。

(二見書房 1408円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 2

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 3

    吉川ひなのだけじゃない! カネ、洗脳…芸能界“毒親”伝説

  4. 4

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  5. 5

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    木村拓哉"失言3連発"で「地上波から消滅」危機…スポンサーがヒヤヒヤする危なっかしい言動

  3. 8

    Rソックス3A上沢直之に巨人が食いつく…本人はメジャー挑戦続行を明言せず

  4. 9

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 10

    立花孝志氏『家から出てこいよ』演説にソックリと指摘…大阪市長時代の橋下徹氏「TM演説」の中身と顛末