「ふたり女房 京都鷹ヶ峰御薬園日録」澤田瞳子著

公開日: 更新日:

 江戸の初期に明の「本草綱目」が紹介されたことがきっかけに日本でも本草学が発展した。それに伴って日本各地に薬用植物園(薬園、御薬園)が開設されるようになる。御薬園は、各種の薬用植物の維持と増産、また新しい薬用植物の栽培試験場としての役割を果たしていた。幕府直轄の御薬園としては、江戸の小石川御薬園、京都の鷹ヶ峰御薬園、長崎の十善師郷御薬園が有名だが、本書は鷹ヶ峰御薬園を舞台とした歴史小説。

【あらすじ】元岡真葛は21歳。父の玄已は和漢薬に造詣の深い医師であったが、真葛が3歳のときに母が亡くなる。その死に責任を感じた父は鷹ヶ峰の友人の藤林信太夫に娘の真葛を預け長崎へ行くと言い残して以後、行方をくらましてしまった。

 藤林家は禁裏御典医であると同時に徳川家康から鷹ヶ峰の御薬園の経営を任された名家。幼い頃から薬園を駆け回っていた真葛は卓越した調薬と薬草栽培の腕を持ち、周囲も真葛の見立てには信頼を置き、義兄の藤林匡がいないときなど簡単な診療をしていた。

 ある日、母方の公家の棚倉家の使いが真葛を訪ねてきた。上京の薬種屋、成田屋に奉公している幼馴染みのお雪と連絡が全く取れずに心配している。ついては真葛に様子を探ってほしいという。成田屋は近頃、薬種の品質が著しく落ち、真葛のところでも出入りを差し止めたところだった。真葛は早速成田屋を訪ねるがお雪とは会えず、店の様子が変だと感じて周囲の聞き込みを開始する--。

【読みどころ】全6話。いずれも薬草が関係したミステリー仕立てになっている。女性の薬師が探偵役というユニークな設定だが、薬草の育成栽培の仕方や出入りの薬種屋との関係など細部のリアリティーが物語の土台を支えている。 <石>

(徳間書店 726円)

【連載】文庫で読む 医療小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動