「柿のへた 御薬園同心 水上草介」梶よう子著
小石川植物園は、4万8800坪の広大な敷地に約4000種の植物が栽培され、本館に収蔵されている植物標本約70万点という世界有数の植物園。その前身は将軍綱吉の時代に誕生した幕府直轄の小石川御薬園で、将軍吉宗の時代にほぼ現在の規模に拡充された。本書の主人公は、小石川御薬園に勤務する同心だ。
【あらすじ】水上草介は20歳で水上家の跡を継ぎ、御薬園同心になって2年。剣術はからっきしだが、本草学には詳しく並外れた知識を持つ。おっとりした性格で、手足がひょろ長く、吹けば飛ぶような体躯から「水草さま」と揶揄されているが、本人は一向に気にしていない。
そんなお人好しの性格を歯がゆく思っているのが、御薬園の西側を預かる芥川家の娘・千歳だ。千歳は、きりっとした面立ちに若衆髷を結い、袴姿で剣術道場に通うおてんば娘。その千歳が草介に相談に来た。千歳が通う道場に剣術の才にあふれている寅之助という少年がいるのだが、なぜか子供同士の試合には一度も勝てない。理由を聞くと、寅之助は極度のあがり性で試合になるとしゃっくりが止まらなくなるというのだ。そこでしゃっくりを止める薬草を処方してほしいと。草介は柿のへたを材料とする柿蔕湯という煎じ薬を勧めるが、寅之助に会ってみて、彼が試合に勝てないのはしゃっくりのせいだけではないと推察し、ある行動を起こす……。
【読みどころ】時はペリー来航の20年ほど前の天保6(1835)年。新興の蘭学が徐々に旧来の漢方・本草学を押しのけようとし始めてきた頃。そんな時代の空気を巧みに取り入れながら、元祖草食系男子で植物オタクの草介がその知識を生かして難問・揉め事を解決する、人気シリーズの第1作。 <石>
(集英社 682円)