「ノスタルジア喫茶」イスクラ著
中東欧、ロシアの古物を販売する著者のもとには、自然とマッチのラベルやポストカードなどの古い紙類が集まってくる。中には、丁寧にしわをのばしたお菓子の包み紙や、瓶からはがした飲料のラベルなど、当時の人々がささやかな楽しみの思い出としてとっておいたものもあるという。
本書は、ソビエト時代の領内各国の飲料や瓶詰、お菓子などのラベルやパッケージを紹介しながら、人々に愛された庶民の味を紹介するビジュアルブック。
資本主義のシンボル「コーラ」などの炭酸飲料が売られていない時代、ソ連では独自の飲み物が流通していた。
食堂で提供される飲み物の定番、「モルス」や「カンポート」を再現し、当時用いられていたグラスに入れて紹介。前者はラズベリーの甘味水で、後者はドライフルーツのコンポートだそうだ。
当時の飲み物の自動販売機や露店事情を伝えるエッセーなどと共に、1969年にコーラに代わる飲料として開発されたソ連版コーラ「バイカル」をはじめ、さまざまな飲み物のラベルを並べ解説。
「鉄のカーテン」にはばまれ、外に漏れ出ることがなかったソ連時代の庶民の暮らしの一端がうかがえ、興味深い。
そして、ソビエトのお菓子の代表ともいえるチョコレートをはじめ、ウエハースなどの包み紙も国ごとに紹介。
その合間に、アゼルバイジャン発祥のおやき「グタブ」などの軽食から、日々の食卓に欠かせないトゥヴァロク(カッテージチーズ)を使ったお菓子「グラジロヴァンヌィエ・スィルスキー」や、ジャガイモに見立てたチョコケーキ「ピロージナエ・カルトシカ」などの手作りお菓子・飲料のレシピ56品分も併録。
異国のおやつが、マンネリな日常に新しい風を吹き入れてくれそうだ。
(グラフィック社 1760円)