「土偶を読む図鑑」竹倉史人著
縄文文化を象徴する土偶。そのユニークな造形は、女性や妊婦をかたどったとか、人体をデフォルメしたなどといわれるが、そうした考古学の定説に違和感を抱いた著者は、専門外だった土偶の研究に着手。そして「土偶は植物をかたどった精霊像である」という結論に至る。
その研究成果をまとめ、考古学に一石を投じた「土偶を読む」(サントリー学芸賞受賞作)を図鑑化したのが本書だ。
古代人の最大の関心事は「食糧の獲得」であるがゆえに、土偶は縄文人の日々の生活を支えた「植物資源の利用」と関係しているはずだと考察。当時の植物利用、とりわけ栽培の際に行われた呪術のために製作された呪具が土偶であるという。
そうした確信から、「土偶は縄文人が食べていた植物をかたどったフィギュアである」という仮説を立て、縄文人の神話的世界観を反映する土偶のデザインを解読すると、驚くような事実が分かる。
まずは頭部の形から「ハート形土偶」と呼ばれる土偶のデザインに注目。
仮説が正しければ縄文人が食べていたハート形の植物が存在しているはずだ。しかし、それらしい植物はなかなか見つからず、長野県の森でようやく、その植物と出合う。
オニグルミだ。その殻の断面は完璧なハート形で、土偶の顔の輪郭と一致。さらに土偶の体表に刻まれた渦巻き文様や、体表部のエッジに開けられた小さな孔(あな)や全体の線刻がオニグルミの殻の文様や質感と一致している
ハート形土偶の出土分布とオニグルミの生育分布も近接性があるという。
同じように国宝の「縄文のビーナス」とトチノミ、「結髪土偶」とイネ、「合掌土偶」とクリなどの関係を読み解いていく。
ページを開けば、これまでの土偶に対する認識が一変。目からウロコとはまさにこのことだ。
(小学館 1980円)