一ノ瀬俊也(埼玉大学教養学部教授)
8月×日 陸上自衛隊が舞台のテレビドラマを観ている。いわゆる落ちこぼれ男子たちの青春物語で、女性はというと「美人」と呼ばれる教官が1人。彼女は隊員たちの成長に一定の役割を果たすが、しょせんは「紅一点」的な位置づけだ。
先月観た米国映画「トップガン・マーヴェリック」で、米海軍の女性パイロットが男性に混じって戦闘機を操っていたのとはだいぶ違う。自衛隊にとって女性とは何なのだろう……というところで手に取りたいのが、佐藤文香著「女性兵士という難問 ジェンダーから問う戦争・軍隊の社会学」(慶應義塾大学出版会 2640円)。自衛隊の隊員募集ポスターを分析すると女性の写真や美少女の絵が多数登場するが、それは自衛隊の軍事主義的側面を薄める広報戦略の一環といえる。自衛隊にとって女性とは人材難緩和の貴重な“戦力”であるとともに「軍事組織を現代的にイメージチェンジさせてくれるアイコン」である。女性隊員の「活躍」や「登用」が推進されるのはそのためでもある。そう考えると、先のドラマにおける女性の扱いも得心がいく。
8月×日 今年もまた終戦記念日がめぐってくる。昔にくらべて各メディアの戦争報道もかなり減ったが、いっぽうで客観的な分析も増えてきたように思う。そのひとつが清水亮著「『予科練』戦友会の社会学 戦争の記憶のかたち」(新曜社 3520円)。戦後、多くの元兵士たちが戦友会を作ったが、参加した人びとは何を思っていたのだろうか。本書は、海軍の飛行予科練習生の戦友会を事例として、彼らが戦後社会を生きた軌跡をていねいに描く。
元予科練生たちは慰霊碑の建立などの活動を通じて新たな社会的つながりを構築していった。そのなかで予科練の基地があった茨城県阿見町に予科練の記念館が作られ、戦争の記憶は地域の次代に受け継がれていく。今年も繰り返されるであろう「戦争の記憶の風化」というステレオタイプな見方に一石を投じる労作。