黒木亮(作家)
7月×日 久しぶりのスコットランド旅行で、ネス湖をみる。人里離れた山奥にある霧がかかった湖で、何かがいても全然おかしくない雰囲気。家族も職業も捨て、湖畔に小屋を建て、1991年からネッシーを捜し続けているスティーブというおじさんが、生計を立てるために自分でつくったネッシーの置物を売っていた。執念と哀愁を感じさせる光景で、わたし好み。
石原慎太郎著「『私』という男の生涯」(幻冬舎 1980円)を読む。死を前にした著名人がどんなことを考えているのかが分かって面白い。石原氏と何度か会ったことのある知人は、「彼はよく言えば想像の世界に、悪く言えば妄想の世界に生きていた人。問題や批判も多いが、それを突破してきた『初代トランプ』である。如水会(一橋大学OB会)では皆に好かれていた」という。ある中央省庁の官僚は、「物事を決める胆力がある政治家が本当にいない昨今、貴重な人材だったかもしれない」と言う。東京都知事時代に45歳年下の女性と付き合っていたときの様子を馬鹿正直に仔細に書いてあったりして、この人、若者のままの純粋な面も持ち続けていたんだろうなと思う。
7月×日 スコットランドは北海道より涼しく、最高気温は18度くらい。曇り時々晴れ、時々小雨で、これが典型的な天気らしい。
バスツアーで北西部にあるスカイ島を巡る。スカイはゲール語で「翼」という意味で、島の形からこう呼ばれているらしい。風景は荒涼とした緑のグランドキャニオンで、地の果てにきた感じ。島の中心、ポートリーの町で食べたフィッシュ・アンド・チップスが揚げ立てで美味しかった。
河合薫著「THE HOPE50歳はどこへ消えた?」(プレジデント社 1760円)を読む。サラリーマンなら誰もが経験する50歳という人生の変わり目への処し方を書いた本。分かりやすい例と、歴史・学術的記述がバランスよく入っており、飽きさせない。仕事に誇りを持ってバレリーナのように働くベテラン・ウェイトレスの話が印象的。