もうダマされない 最新陰謀論本特集
「陰謀論」 秦正樹著
新型コロナウイルス感染症のパンデミック、そしてロシアによるウクライナ侵攻など、政治的・社会的に大きな変化が続く時代には荒唐無稽な陰謀論が数多く生まれやすい。なぜ人は陰謀論を生み出し、拡散し、信じてしまうのか。今回は陰謀論のメカニズムや最新の陰謀論の実態が分かる5冊をピックアップした。
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陰謀論が世界各国の政治や社会を混乱させるようになったのは、2010年ごろからだという。
そもそも陰謀論とは何か。それは、ある重要な出来事の原因を、一般人には知り得ない強大な力に求める点に特徴がある。フェイクニュースの場合は検証可能性が高い。例えば、トランプ大統領の就任式を、大統領報道官は「建国史上最多の聴衆が参加した」と発表した。しかし、オバマ大統領の就任式の空撮写真と比べてみると、この発表は明らかにオーバーであることが分かる。証拠によって真偽を容易に判別できる言説はフェイクニュースだ。
一方で、昨今SNSで拡散された「コロナワクチンによる不妊説」は、専門家や学会が明確に誤りを指摘したが、一般には難解で理解しにくかった。そのため拡散が止まらず、その是非を巡り分断も起きている。
陰謀論受容の心理なども解説しながら、陰謀論から身を守る方法も考察していく。
(中央公論新社 946円)
「デマの影響力」 シナン・アラル著、夏目大訳
マサチューセッツ工科大学教授である著者は、ネットワークサービス全体を「ハイプ・マシン(誇大宣伝機械)」と名付け、破壊的な力を持ち社会問題の発生源にもなると指摘する。
ハイプ・マシンには、良い側面もあり、SNSに促されて寄付行動を行うこともある。とある実験では、まず被験者の若者たちを集めて互いに知り合わせた。これだけでは寄付のことなど話題に上らないが、一部の被験者に寄付をしたとSNSに書き込ませると、寄付額を多額にするほど「いいね!」が付き、「いいね!」が多くなるほど寄付をする者が増えたという。
しかし、この現象は負の側面でも起こりやすい。国家や企業の目的に合うように操作し、やりとりされる情報に手を加えることで世論を変化させ人間の行動を変えてしまうことすらできるわけだ。
ハイプ・マシンの影響力を知ることこそが、デマに惑わされない唯一の方法かもしれない。
(ダイヤモンド社 2420円)
「Qを追う」藤原学思著
陰謀論集団「Qアノン」の取材を続けてきた著者によるルポルタージュ。政府の機密情報に触れられる人物、あるいは集団が「Q」であり、Qアノンはその言葉をよりどころとするアノニマス=名無しの信奉者たちや政治運動を指す。
Qアノンの主張は、この世界には小児性愛者の集団があり、その組織にはアメリカ民主党の政治家やハリウッドスターらが所属するというもの。悪魔を崇拝し人肉を食べる者もいる。さらに彼らは世界を操るディープステート(影の政府)であり、前大統領のトランプは、これと闘っているという。
遠いアメリカの荒唐無稽な話と思うなかれ。Qアノンを広めようとする集団は2020年時点で日本とブラジルで確認されており、日本の集団はアメリカの“情報”を翻訳するなどして大規模な拡散を図っているという。
Qアノンにはまって抜け出せなくなった人々の声も掲載しながら、Qアノンの正体に迫っていく。
(朝日新聞出版 1870円)
「ストーリーが世界を滅ぼす」 ジョナサン・ゴットシャル著 月谷真紀訳
宇宙人を収容しているとされるアメリカの「エリア51」。実は国民の半数近くがこの施設を信じているか、嘘とは断定できないと考えているという。また、近年では新型コロナウイルスに対する陰謀論を支持する人が増加。27%がワクチンは体に追跡用のチップを埋め込むために使われると懸念を示しているという。
なぜこのような傾向が強まっているのか。そこには、物語性があるからだと本書は分析する。物語は人類にとって恵みであり、世界を理解するツールであり、人類という種を高みに引き上げてきた功績を持つ。
しかし、あらゆるメディアの消費量が激増する現在、物語は人間の心を狂わせ、分断する装置となってしまった。本書で“でかメガホン”と呼ばれる某氏が大統領になることを予測できた識者はわずかだった。
それは、ストーリーテラーとしての彼の才能を見抜けなかったためだ。人間が陰謀論を信じてしまう背景が見えてくる。
(東洋経済新報社 2200円)
「CIA陰謀論の真相」 星野陽平著
アメリカCIAの対日工作に迫る本書。ソ連が消滅し、CIAが次なる敵として注目したのが日本だった。アメリカに対する将来の脅威について、ソ連の軍事的脅威が22%、日本の経済的脅威が68%という世論調査もあったという。
以降、CIAは対日工作を強化した。例えば、CIAは安倍政権を敵視していたとされ、その理由がロシアとイスラエルへの接近と、韓国との密な関係だったという。2016年、政界を大パニックに陥れた「甘利明大臣事務所に賄賂1200万円」というスクープ記事は、当時難航していたTPPを大筋合意に導いた安倍政権への牽制と読み解く本書。
一方、この一大スキャンダルを打ち消すかのようにテレビを賑わせていたのは、SMAP解散騒動やベッキーの不倫疑惑だった。実はこれらの芸能ニュースは偶発的に起きたのではないと考察している。CIAと日本政府、そして大手芸能事務所との関係もひもとく問題作だ。
(鹿砦社 2640円)