田中雄二(映像プロデューサー)

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4月×日 去年「シン・YMO」(DU BOOKS 4180円)というYMO評伝で取り上げた、高橋幸宏、坂本龍一の2人のメンバーを立て続けに失った。思春期に影響受けてヒネクレ者に育った自分には、テレビの追悼報道もすべて薄っぺらく、人一倍喪失感を感じて気分が優れない。

 近田春夫著「グループサウンズ」(文藝春秋 990円)は、音楽家による最後のGS論。故人とも関わり深かった。細野晴臣のはっぴいえんどとGSは敵対関係にあったし、日本語ロック論争では内田裕也派にいた人。

 ジャズ編成では添え物だったエレキギターが、アンプの過大入力で暴力表現を獲得。アンサンブルの要となる「ロックの誕生」からつづっている。コスチュームなど外見に惑わされない、洋楽の習熟度で評価する姿勢が持ち味。楽器を弾かない音楽評論家の信憑性は大いに揺らぐ。半芸能的だったYMOの本質に気付いていた、数少ない評論家と言えるかもしれない。

モンパルナス1934」(blueprint 3080円)の著者、村井邦彦はYMOをデビューさせたレコード会社社長。2冊自筆本もあり、共同経営者だった川添象郎の自伝も昨年話題になった。本書は村井の指導者だった昭和の国際人、川添浩史の評伝。吉田俊宏との共著で、記録の少ないパリ遊学時代を取材したメタ小説として書かれた。吾妻歌舞伎を海外輸出した功績は、YMO世界進出に繋がっていると村井は語る。

 持田保著「あなたの聴かない世界」(DU BOOKS 2420円)は、ジミー・ペイジの黒魔術はじめ、ニューエイジ、ノイズ界隈の伝承をまとめた音楽業界の黒歴史本。ジョー・ミークの表紙から怪電波がピピピ。「シン・YMO」でも結成のミステリーに触れたが、音楽流行を追ってるとしばしば事件性の高い出来事と出合う。レコード会社のあるハイテクビルに行くと、不釣り合いな神棚が置いてあるのをよく見かけるが、ショービスで成功することとオカルトは、どこかで深く交わっている。

【連載】週間読書日記

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