「写真で見る馬を巡る旅」小檜山悟著

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「写真で見る馬を巡る旅」小檜山悟著

 東京競馬場でアルバイトをしていた学生時代から競走馬の写真を撮ってきた著者は、JRAの調教師の仕事の傍ら、競馬誌で連載を持ち、これまでに馬の写真集を5冊出版してきた。

 そんな馬と馬写真の専門家が日本各地を巡り、その土地に伝わる馬文化をカメラに収めた写真集。

 馬を巡る旅を始めるきっかけとなったのは、自厩舎の馬主でもある作家の浅田次郎氏の所有馬メダイヨンだった。競走馬を引退したメダイヨンが、京都・上賀茂神社の神馬、「六代目神山号」になったと聞き、会いにいったのだ。

 年を重ねさらに白さを増した芦毛の牡馬の神山号が、堂々と正月の神事をこなしていくさまをカメラは追う。

 上賀茂神社では、毎年5月、日本の競馬のルーツとなった賀茂競馬も行われる。古式にのっとり、時代衣装を身につけた乗尻と呼ばれる騎手らによって繰り広げられる2頭立ての競馬や儀式は、まるで絵巻物に描かれる世界のようだ。

 さらに山梨県富士吉田の小室浅間神社で行われる神事「流鏑馬」や、女性たちが馬を片手で操り舞いながら参道を駆ける「馬上舞」、刀身も柄も長い刀を馬上で振るう「長巻」などが披露される滋賀県近江八幡市の「御猟野乃杜賀茂神社」の馬上武芸奉納など、馬が関わる各地の神事を撮影。

 こうした神事に触れると、古くから日本人と馬は、特別な関係を築き、保ち続けてきたことに改めて気がつく。

 京都の藤森神社の駈馬神事で披露される馬術の技は独特だ。追ってくる敵の動静を馬上で探るために後ろ向きに騎乗する「逆乗り」など、かつて戦場で用いられた馬術を今に伝える。

 小室浅間神社の流鏑馬は、その後行われなくなったというので、貴重な記録でもある。

 このように消える行事もあれば、沖縄では70年ぶりに琉球競馬「ンマハラセー」が復活したと聞き、駆けつける。

 運搬や農耕に馬が活躍していた時代、自慢の馬を持ち寄り、各地で草競馬が行われた。

 ンマハラセーは、そうしたほかの草競馬と異なり、琉球の民族衣装に身をつつんだ乗り手と着飾った馬が速歩で競う。

 駆歩は失格となり、会場には華やかながら南国特有ののんびりとした時間が流れているという。

「さがら草競馬」(静岡県)でポニーを乗りこなしていた少年が、後に著者の厩舎からJRAの騎手(佐藤翔馬騎手)になるなど、意外な出会いもあった。

 ほかにも、藤田菜七子騎手に同行して訪ねたイギリスのサンダウン競馬場やニューマーケットの厩舎などの海外遠征や、福島県いわきの競走馬リハビリテーションセンターの温泉施設で温泉に漬かる競走馬、北海道釧路の馬市のセリの風景、木曽馬の保存繁殖事業が行われている長野県開田高原の「木曽馬の里」、そして引退馬の余生を見据え、木材を馬で運搬する馬搬や田畑を耕す馬耕といったかつての技術を復活させる試みなど。

 馬事文化の伝統とこれからにも目を向けた作品集。

(三才ブックス 2200円)

【連載】GRAPHIC

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