「カレーライスと餃子ライス」片岡義男著
「カレーライスと餃子ライス」片岡義男著
店で食べるカレーライスを木製のスプーンで食べたいと思った僕は、熟考の上、ケヤキのカレースプーンを選んだ。店も迷った末、京都の昭和12年創業の喫茶店のカツカレーに決めた。わざわざ新幹線で2時間かけて来たが、食べることができなかった。実は地元の人たちしか来ない喫茶店で名物のカレーを食べてしまい、いっさいお腹に入らない状態だったからだ──。
あるとき「1本の金属のスプーンですくっては口に入れる行為が、これほどまでに人を幸せにするとは」と感じ入った著者によるカレー漂流記。
200円カレーがあると聞けば電車賃のほうが高くなろうとも出掛け、カツカレーのはしごをもくろみ、立ち食いインドカレーの店に知人と連れ立つ……と、神保町、下北沢などあちこちで食して歩く。ユニークなのは、カレーにまつわる思い出などはつづるが、味についてはほとんど触れていないこと。さらに、カレーとコーヒーがセットになって登場するので、カレーのスパイシーさとコーヒーの苦みが思い出され、読んでいるだけで味わった気分だ。第2章は男性ライターを主人公にした書き下ろし短編。
著者や知人の「涙と一緒に食べた」「母親の味」などカレーにまつわる思い出が面白い。 (晶文社 1870円)