「伝言」中脇初枝著
「伝言」中脇初枝著
満州・新京で暮らすひろみは、新京敷島高等女学校の生徒。憧れの学校に胸を弾ませて入学したのだが、非常時のために授業がなくなり、工場で軍事機密と称する作業に従事するようになった。
何を作っているのかわからないまま、制服は体操服に吊りズボンになり、弁当は日の丸弁当になり、電車も贅沢だといわれて徒歩で歩いて工場への道を往復するようになっていく。尽忠報国、一億玉砕、五族協和を信じ、国のために尽くした日々だったが、ある日敗戦の知らせがやってきた……。
当時現地で暮らしていた人への取材や文献資料をもとに、終戦間際の満州を描いた意欲作。
女学生のひろみ、新宮府建設を請け負う建明の妻・李太太、気球による爆弾攻撃の作戦に駆り出された島田など、満州に生きた人々の複数の視点から当時の状況を浮かび上がらせていく。終盤では、現代の日本に時間軸を移動させ、満州に関心を持ったひろみの孫のあかりが聞き手になり、ひろみの記憶を引き出していく。
知らなかった、仕方なかったでは終わらせず、次世代に経験を伝言しようとする、ひろみの決意が揺るぎない。
(講談社 1980円)