戦争はなくならないのか
「イスラエル軍元兵士が語る非戦論」ダニー・ネフセタイ著 永尾俊彦構成
「イスラエル軍元兵士が語る非戦論」ダニー・ネフセタイ著 永尾俊彦構成
イスラム組織ハマスへの報復攻撃という名目で民間人攻撃をも辞さないイスラエル軍。おかげで世界中から非難を受け、支持を表明した米バイデン大統領の支持率まで悪化しているといわれる。イスラエルは兵役が義務。外国で暮らしていても兵役からは逃れられない。
本書は、若いころ3年間兵役を務め、日本人女性と結婚して秩父に移住し、木製オリジナル家具の工房を開くかたわら、平和と反戦を訴える言論活動にも携わるイスラエル人の最新著作だ。兵役時代の著者は空軍パイロットの養成課程に一時在籍。当時は誇らしい意識も強く、好戦的ではなかったものの来日当初は日本の憲法9条の理念も理解できなかったという。
他方、イスラエルびいきだった日本人の妻はヨルダン川西岸地区やガザ、レバノンとの戦争などで横暴な姿勢をとるイスラエル軍に疑問を感じるようになり、その過程で著者自身、幼少期から受けてきた愛国教育や軍隊経験を見直すようになったという。
イスラエルで受けた愛国教育、軍隊で受けた画一的な訓練、子どもたちとともに訪れたアウシュビッツの思い出、日本で出会ったドイツ人との会話……。さまざまなエピソードを交えて語る非戦への願いだ。
(集英社 1100円)
「戦争と人類」グウィン・ダイヤー著 月沢李歌子訳
「戦争と人類」グウィン・ダイヤー著 月沢李歌子訳
人間は本来、平和を愛する生き物だという説がある。
フランスの啓蒙思想家ルソーは「高貴な野蛮人」をとなえ、文明社会を支配する権力者と聖職者を排除すれば世の中は平和になると説いた。だが、現実は違う。
後世の人類学者は、多くの部族を調査したが、結果はほとんどの社会で戦争は絶えなかったのだ。
しかし、と著者はいう。ほかの動物と違って、人類の社会は単独のボスが群れを支配するのではなく、集団のメンバーがおおむね平等に過ごしながら、ほかの集団との戦を行ったのだと。
カナダ出身で英王立士官学校で教壇に立ったこともある歴史家の著者は、軍隊という組織に特有のしきたりを論じ、歴史のなかで戦争についての人類の認識や常識が、どのように変化してきたのかを丁寧にたどる。
国連は機能せず、大国の横暴を禁じる有効な国際法もできていない。
それでも希望を捨てずにいるには? 大人の知恵の詰まった文明論だ。
(早川書房 1144円)
「日本軍の治安戦」笠原十九司著
「日本軍の治安戦」笠原十九司著
戦国時代の合戦のように互いが正面から激突するだけが戦争ではない。たとえば敵地に侵攻して占領した地域や植民地などで治安を維持するために軍隊が行うのも戦争だ。これを「治安戦」という。
本書は日中戦争当時、旧日本軍が中国の占領地で行った治安戦の歴史研究。日本側はこれを「治安維持」と呼んだが、残虐行為が日常茶飯に行われたことから、中国では「焼き尽くす」(焼光)、「殺し尽くす」(殺光)、「奪い尽くす」(搶光)の3つがそろった「三光作戦」と呼ばれる。日本近現代史・軍事史を専門とする著者はこの実態を加害(日本軍)と被害(中国民衆)双方の証言などを丁寧に掘り起こし、実態を明らかにする。
“自虐史観”などと捨ておくことのできない、戦争のむごい素顔を直視することのできない社会に未来はないだろう。今回、学術文庫入りしたことで若い世代にも手が届きやすくなった。
(岩波書店 1760円)