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「サイバースペースの地政学」小宮山功一朗、小泉悠著

 グローバル化の一方で進む新・冷戦状況。こんな時代こそ「地政学」の重要性が高まる。



「サイバースペースの地政学」小宮山功一朗、小泉悠著

 ひところ「電脳空間」などの訳語がつけられていたサイバースペース。いまではインターネットやSNSによる情報空間という理解が一般的だが、本書はそのインフラの部分に注目。ネットセキュリティーの専門家と軍事評論家が千葉、長崎、北海道、エストニアと一緒に旅し、取材の成果をルポするという趣向だ。

 最初に訪れた千葉ニュータウン中央駅は、かつては空き地の目立つ郊外住宅地だったが、いまはアマゾンやグーグルなどの巨大テックセンターが要塞のように立ち並び、街区はオーストラリア企業が整備し直した情報集積地に一変。仮に日本が外から攻撃されるときは米軍・自衛隊の基地、原発などのほか、ここを叩く可能性は高いだろう。サイバーテロは、もはや戦争の一部だからだ。

 地政学は地理的環境と政治情勢の双方から安全保障や外交・経済を考える国際関係の研究だが、現代ではデータセンターの近所のラーメン屋から出た火事でセンターのサーバーがダウンするなどというリスクもある。無線LANの時代でもデータの9割は有線回路上を行き来していると本書はいう。世界のネットをつなぐ海底ケーブルも切れやすいのが弱点。最後はロシア系住人の多いエストニアが「脱ロ入欧」を図っているさまの報告で締めくくられる。

(早川書房 1100円)

「世界最強の地政学」奥山真司著

「世界最強の地政学」奥山真司著

 イギリスで地政学研究の泰斗に師事し、「地政学の第一人者」と本書でも紹介される著者。しかし自身は「地政学は学問ではない」と言い切る。地理的条件をもとに国際関係を考えるものの見方(方法論)が地政学というわけだ。

 本書ではアリストテレスや孫子に始まり、マハンやマッキンダーに至る古典的地政学を紹介。いわば地政学概論という感じの入門書だが、読者によっては組織論や経営指南に役立てる向きもあるだろう。

 地政学は地理に注目するが、視野には人間の心理も含まれる。ヨーロッパから極東までまたがる巨大な国土を有したランドパワー大国のロシアは、実は自国を侵略される「恐怖」によって外交を考える傾向にあるなど、現代の国際理解にも役立ちそうだ。

(文藝春秋 1045円)

「地政学の逆襲」ロバート・D・カプラン著 櫻井祐子訳

「地政学の逆襲」ロバート・D・カプラン著 櫻井祐子訳

 怪獣映画のもじりみたいな書名だが、実はこれは原題の直訳。地政学は一昔前から再評価され、グローバル化の進展とともに国際関係から経済、企業経営にまで影響や示唆を与えた。著者は、そんなブームの渦中にあったジャーナリスト。

 冷戦終結後の未来像を模索するアメリカを襲った同時多発テロの悲劇と衝撃。そこに始まったアフガンとイラク戦争の泥沼。これらを背景に出版され、10年前に邦訳されたのが今回あらたに新書化された。

 それゆえ、トランプ政権の誕生などは視野に入ってないが、中国は「背後からの脅威」を気にせずに済むという地理的・歴史的条件に恵まれて海洋進出できるという指摘など、現在の極東情勢を見るうえでも役立つ指摘が多い。

(朝日新聞出版 1760円)

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