(84)猪牙舟は吉原通いの遊客の足
重三郎は線香の煙の行方を万感の想いで追う。煙はまっすぐに立ち昇ったあと頭の上でたなびき、ゆっくりと消えていった。
墓前で手を合わせていた、とせが振り返った。
「小紫さんといろいろお話しちゃった」
蔦重は微笑む。春がくれば小紫の命日。とせはそれを忘れない。今…
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